先日の事、柴犬のブラッシングをしながらその柴犬の飼い主さんとやしきたかじん談議に花を咲かせている時に(何の話や・・・)、とある曲を教えて頂いた。
『西新宿の親父の唄』
長渕剛の隠れた名曲。
長渕剛は勿論知っているが、その曲は知らなかった。「めちゃめちゃ良い曲やから聴いてみて。」と仰られ、タイトル的にも私好みだったのもあり早速帰りの道中、YouTubeを検索して聴いてみる事に。
イントロから良い。歌詞も沁みる。そしてサビに突入する頃にはすっかり歌の世界に引き込まれ、気付けば涙が流れていた。
話は少し変わる。
毎年10月に警察犬協会が主催する全国規模の訓練競技会が長野県で催される。どうやら私の師匠が上位入賞を果たしたようである。去年に引き続いての上位入賞である。何か祝辞の電話でも入れようかと一瞬思ったがやめた。あくまで上位入賞で優勝ではないから悔しい気持ちの方が強いであろうし、何より弟子の私が祝辞を述べたところで「んな事よりお前も競技会の犬を作れ」とドヤされるのが目に見えるからだ。これが普通にお世話になった方に対してであれば「おめでとうございます。」「ありがとうございます。」で済む話だろうが、師弟関係だとそうはいかない。何とも面倒くさい関係である。
師匠の事を少しだけ書こうと思う。
私は高校を卒業してすぐに師匠の元へ行き、修行の日々を始め、30才で独立したので、約11年間お世話になった事になる。私より19才年上の方なので、訓練所に入所した時は37才。今の私より年下である。何とも感慨深い。
今の師匠はだいぶん丸くなったが当時はまだまだ若く、厳しかった。中卒で訓練士の世界に入り、腕一本で成り上がった苦労人で、すごい方ではあるが、子供がそのまま大人になったようなところがあり、思った事をそのまま口にする癖がある。それが元で周りに非常に迷惑をかけたりトラブルになる事も度々あったが、私もずいぶん罵詈雑言を浴びせられた。人前で貶される事など日常茶飯事で、今だったらパワハラで訴えられるレベルだと思う。後年、師匠の奥さんが「あの当時のキクちゃん(私の事)が不憫でならなかった。」と述懐されていたが、いやホントに酷い環境であった。仕事はキツイ(仕事ではなく修行である)、師匠もキツイ、金はない、実家に逃げ帰る足もない。毎日毎日嫌で嫌で仕方がなかったが、目の前には世話をするべき犬が沢山いる。兎に角一つ一つやるしか無かった。
あの当時の師匠は息子さんの事とか、訓練所経営の事とか、仕事のやり方の方向性とかの問題が山積していて、今思えば迷走状態だったんだと思う。後日談だが、当時は借金をしていて夜逃げも考えるほど追い込まれていたそうである。そんな状況で犬の訓練に身がはいる訳もなく、競技会で好成績を修める師匠の姿を見た事がなかった。今では訓練所も移転し、息子さんも弁護士として立派に独立を果たし、心身共に充実されているのだろう。近年の競技会の成績がそれを物語っている。今、師匠の元で修行をしている子が二人おられるみたいである。
正直、羨ましい。
今私が18才で、師匠の元で修行を始めたら今とは全く違うタイプの訓練士になっていただろうと思う。
ま、仕方ない。因縁である。
荒れていた頃の師匠に師事した事でしか得られないものもあると思う。全て因縁と受け止めて、一歩一歩進むのみである。
長渕は唄う。
『やるなら今しかねぇ やるなら今しかねぇ
66の親父の口癖は やるなら今しかねぇ』
そうだそうだ。その通りだ。過去でも未来でもない。今を一所懸命に生きるのみ。
『やるなら今しかねぇ やるなら今しかねぇ
66の親父の口癖は やるなら今しかねぇ』
・・・。
・・・。
何てこった。師匠も今年66じゃねえか・・・。
何たる偶然。
何の因果や。
ハハ、今年のお歳暮は少し高めの酒でも贈るとするか。
祝い酒や。