第61回 『狭間』

先日、約一年振りにある飼い主さんから連絡がありました。『あの人どうしてはるんやろぉ。あの犬元気にしてるかなぁ。』って思ってた方だったのでとても嬉しかったです。コロナの影響もあり、約一年の間にその方を取り巻く環境がだいぶ変わってしまい、再会した瞬間に『あぁ、苦労されてるなぁ。』という印象を受けました。吠え癖に悩まされてるという事でしたが犬には問題ないとすぐに感じました。主従関係をつける散歩の仕方と、犬が吠えるメカニズムを指導しますとだいぶ心が軽くなられたご様子。ただあくまでスタート地点に立っただけ。勝負はこれからです。

私は『こうすれば治る』という方程式を示す事は出来ます。後はそれを飼い主さんが実行するだけ。実行する力を身に付けるだけ。訓練士の仕事は問題行動を治す事ではなく、飼い主を治す事。

犬・飼い主・問題行動。

その狭間に

私はいつも悩まされます。

第60回 『士』

先日、しつけの指導で加古川市まで行ってまいりました。通常であればそんな遠方まで行く事はないのですが、いただいたメールの文面から熱意が伝わってきましたので足を運び、誠意を持って指導させていただきました。飼い主さんの耳に痛い言葉をいっぱい言って申し訳ない気持ちもありますが、問題行動改善の為には言うべき事は言わねばならないという思いがあります。なんとか突破口を開いて明るいドッグライフを送ってほしいと切に願っております。

私は飼い主さんに調子の良い事は言いません。むしろ飼い主さんがしんどくなるような事を言う方が多いと思います。それは問題行動の原因の多くは飼い主にあるからです。接し方、考え方、クセ。それらが積り積もって問題行動として表面化するのです。犬がどう変わるかではなく、人間がどう変わるかなんです。

しかし人間を指導する事はとてつもなく難しい。人に指導する器である為には己を律する生活をするしかありません。日常生活から己を律し、精神を鍛練するしかない。訓練士の『士』とは『人徳を有する者』という意味だと解釈しております。

かつてある人が私に言いました。「訓練士はビジネスや。」と。その言葉に納得は出来ませんでしたが20代の私には明確な信念も答えもなかったので悶々とした思いを持ちながら犬と向き合ってました。しかし今の私には揺るぎない信念があります。

『訓練士とは教育者である。』と。

美衣美食を求めて犬や飼い主と向き合う者は『犬屋』だと思う。

私は、

『訓練士』でありたい。

一生、

求道の人生を送りたい。

第59回 『意義を示してくれたのは』

ここ最近、保護犬のしつけの相談や問題行動改善の問い合わせが増えてます。

『良い傾向やなぁ。』って思う。

ペットショップやブリーダーから買う事に全面的に否定する気はありませんが、保健所で死を待つ命や施設で新しい飼い主を待つ命を家族として迎える方が尊い行為だと思う。

私は訓練士生活二年目(20才)の頃に大きな挫折を味わい自信を失っていた時に『動物たちへのレクイエム』という写真展が大阪で開催されているのを知り、休日を利用して足を運びました。『行かねばならない!』と感じたからです。そこに展示されている写真は涙なしには見れませんでした。怯えた表情。悲しい表情。その中でも真っすぐにこちらを見すえる日本犬の表情が私の心を揺さぶりました。首輪がついたままのその犬の目が人間の愚かさを物語っている気がしました。

『俺は何に悩んでるんや・・・。』

『何甘えてんねん・・・。』

かわいそうな命達が私に道を示してくれました。

愚かな人間の犠牲となった命達が私に目標を与えてくれました。

保健所に収容されている犬や施設にいる犬の多くはストレスを抱えており、精神状態が不安定で扱いが難しい犬が多いのは確かですが、ストレスを抜いてやり信頼関係と主従関係を作れば素晴らしい犬に変わります。

お金で命を買う前に、保護されている命や収容されている命にも目を向けてみる。そういう人間が一人でも増えればちょっとは明るい、温かい世界になるんじゃないかなぁ。私が愛犬のマックスを一才半の時に引き取ったのも、その思いが根底にあったからだと思います。

人を六人も嚙んだ嚙んだマックスが今では誰でも触れる犬になりました。

野良猫に襲い掛かってたマックスが今では猫と一緒に寝ています。

犬は、変われるんです。

人も、変われるんです。

第58回 『深める』

昨年11月から推定2才の保護犬のしつけをさせていただいておりますが、ここ最近の成長ぶりが素晴らしい。犬の成長はもちろんですがそれ以上に飼い主さんのレベルアップが脱帽モンです。社会化が全くされていない保護犬の為、多くの問題を抱えておりしつけが大変です。腕を嚙む、足を嚙む、飛びついて嚙む、引っ張る、すぐに興奮する・・・等々。初めの頃は毎回毎回アザだらけ生傷だらけの腕や足を飼い主さんから披露されてました。「また嚙まれました・・・。」「また飛びつかれて大変でした・・・。」「引っ張られてこけそうになりました・・・。」

その犬と飼い主さんの相性から『ハードルが高いな・・・。』という第一印象でしたが、問題行動のメカニズムと解決の方程式を説明し、目の前で実践すると飼い主さんのしつけに対するモチベーションに火がついたのかとても一生懸命に問題行動の改善に取り組まれるようになりました。私のアドバイスを一語一句をちゃんと聞いてくれて、少しずつ少しずつレベルアップしていくのが見て取れて感動的です。大寒波の時でもしつけに取り組まれる姿を見た時は胸が熱くなりました。

行く度に飼い主さんから感謝の言葉をいただきますが、いやいや私の方こそ感謝です。一風変わった、あまり一般的でない私のしつけ論をよく理解し、実践してくれて犬が良い方向に向かって行く。これこそ訓練士として最高の喜び。これに勝る喜びなんてないです。

問題行動の改善には、訓練士と飼い主さんとの間に不抜の信頼関係を作り、二人三脚で取り組むこと。

その犬と飼い主さんのおかげで私は自分の信念を深める事が出来ました。

この深めた信念を多くの犬と飼い主さんに還元していきたい。

第57回 『力量』

2021年がスタートして早や一か月が経とうとしています。連日ニュースの最初の話題はやはりコロナ・・・。コロナに感染して苦しんでいる人、失業した人、収入が激減した人等のニュースが日々流れ、いつになったら落ち着くのかと暗澹たる気持ちになります。そんな中、私はありがたい事に毎日忙しく働かせていただいております。『疲れたぁ、疲れたぁ』ではなく『有難い、有難い』を意識しながら動いてます。

先日、生後二か月の甲斐犬のワンポイントレッスンという、とても貴重な経験をさせていただきました。甲斐犬というだけでも珍しいのに仔犬に触れあえるなんて・・・。日本犬が大好きな私は前日からワクワクしておりました。見させていただいた仔は非常に憶病で、動物らしさを濃く残しているとても魅力的な仔犬でした。私を見ると怯えてテーブルの下に隠れてうなりながら吠える程繊細です。抱っこした瞬間にはパニックを起こしてギャーギャー鳴きわめきながら暴れ嚙んできましたが、五分程マッサージをすると少し落ち着いてくれました。わめく程怯えているのにオシッコをちびらなかったので支配的な犬になるだろうなと思いました。社会化を徹底しないと将来扱いにくい犬になりそうです。

動物らしさを濃く残している犬を飼うには人間の力量が試されます。それが私が日本犬に惹かれる所以です。この先色々大変な事がありそうですが、飼い主さんには是非頑張って力量を身に付けていただきたいなと切に願います。

とにもかくにも

2021年スタートです。

今年も頑張ってまいります。

第56回 『師走ですね』

今年も残すところわずかとなりました。早いですね。『密』が今年の漢字に選ばれたみたいですがやはりコロナ関連でしたね。コロナで始まりコロナで終わったような一年でしたからね。『鬼』や『滅』になるよりかはマシかな・・・。幸い私はコロナにかかることなく、体調を崩さずやってこれました。いやぁ、有難い有難い。

今年も色々な犬に出会えたなぁ。色々な飼い主さんとの出会いに恵まれたなぁ。相変わらず飼い主さんへの指導法には頭を悩まされますが、幅が広がったと実感出来る一年になりました。ホント、努力・研究に終わりはありませんわ。

来年も全集中、令和三年の呼吸、努力精進の型でやってまいります。

皆様、良いお年を。

第55回 『種を見つける』

近所にチワワを二匹飼ってる方がいます。毎朝その家を通る度に犬の吠える声と飼い主さんの金切り声が聞こえてきます。

『かわいそうやな。』って思う。

犬がね。

落ち着きのない、騒々しい人間に飼われる犬は不幸だ。

犬の行動は飼い主の行動のクセや考え方のクセを反映しているに過ぎない。だから犬の行動を変えたければ飼い主が行動を変えないといけない。

行動を変える第一歩は謙虚になる事。

その人間に足りないものは何かをわからせる為に神様仏様が遣わしてくれた動物、それが犬。

『精進せぇよ、精進せぇよぉ。』

神様の声が聞こえますか。

『悟れよぉ、悟れよぉ。』

仏様のエネルギーを感じますか。

せっかちな人は呼吸を整える努力。

イライラしがちな人は草花に美を見出す努力。

他人の短所ばかり目につく人は長所を見つける努力。

他人のせいばかりする人は己を省みる努力。

「時間がない。」が口癖の人は時間を作る努力。

努力の種なんていくらでもある。

私なんて、いくらでも種を持ってますよ。そりゃもう、イヤになるぐらい。

それだけ

多くの実がなる花が咲く。

自分の種を見きわめて

あせらず、慌てず、着実に

収穫の時期を待ちましょう。

第54回 『散歩ですっ!!』

散歩は犬にとって必須です。最重要事項です。一番のコミュニケーションになります。

先日も嚙む・吠える・部屋中に粗相する問題を抱えた9才の小型犬の飼い主さんに散歩の大切さを力説しているとポカンとしたご様子・・・。

「小型犬は散歩をしなくても大丈夫と聞きましたが・・・。」

「誰から聞いたんですか?」

「ペットショップの店員さんから・・・。」

はぁ・・・。ここにもペットショップ店員の間違ったアドバイスによる被害者が・・・。

散歩に体の大きさは関係ありません。体が散歩を求めているのではなく、犬としてのDNAが求めているんです。

先述のその飼い主さん、「掃除機をかけるとこの子は興奮して掃除機に噛みついてきて、掃除が終わる頃にはハアハアと肩で息をする程疲れるからそれで運動が足りてると思ってました。」と云う始末。

絶句・・・。

二の句が継げない・・・。

『そりゃ、この人が飼えば問題行動の総合商社のような犬が出来上がるわな・・・。』って思っちゃったし、言っちゃった。

散歩!! 散歩!! 散歩です!!

草木の匂いを嗅ぐ犬の姿に癒されましょう。

歩く姿、走っている時の表情に喜びを見出しましょう。

散歩を通して四季の移ろいを感じましょう。

問題行動の改善云々はそれからです!!

第53回 『愛犬近況』

九月に入り秋の空気になりましたね。朝晩は半袖だと少し寒いぐらいです。早朝の愛犬マックスとの散歩が楽しくなり自然と散歩の時間が長くなります。

そのマックスですが先月は大変でした。暑さと加齢の影響で三回も腸炎になってしまい、上からも下からも出るわ出るわで夜中に何度も起こされ寝不足の日が何日もありました。年に一、二回腸炎になる事はありますが同じ月に三回は初でした。

あまりに衰弱しきった状態になった時は死を覚悟しましたが、持ち前の生命力と数日の断食により無事復活し、今ではイキイキした表情で散歩が出来るまで回復しました。元気な姿のマックスを見てるととても幸せな気持ちになり、改めて犬の存在の大きさを感じます。飼い主さんの気持ちに寄り添う事が出来るのもマックスのおかげだと思います。

マックスは12月で14才。

あとどれぐらいの時間を一緒に過ごせるか。

一日一日大切に。

一回一回の散歩を大切に。

気持ち良さげに寝息を立てている愛犬の横でキーボードを叩いております。

第52回 『りっしんべんの方』

しつけが出来ない飼い主さんが実に多い。

『犬に我慢をさせるのがかわいそう。』

『ルールを作ると犬に嫌われるんじゃないか。』

『自由にさせてあげないとストレスがたまるんじゃないか。』

という考えに捉われているとしつけは成功しません。絶対に。

しつけを成功させるポイントはたのしむ事。しかし『楽しむ』ではなく『愉しむ』です。『enjoy』ではなく『pleasure』です。

友人と飲みに行く、恋人とドライブする、美味しい物を食べる、これらは『楽しむ』ですね。『enjoy』ですね。

困難な仕事をやり遂げる、わからなった数学の問題が勉強して理解出来るようになる、オリンピック選手が厳しい練習を己に課し自己ベストを更新する、これらは『愉しむ』ですね。『pleasure』ですね。しつけはこっちです。

家を出る時入る時は人間が先、リードを引っ張らさず人間に合わして歩く、食事の催促はさせない、等々といったルールを作り徹底して教え込む。その過程で起こる自身の心情の変化や犬の態度の変化を愉しめるようになればしめたもの。しつけは成功したも同然です。

『愉しむこと』

『pleasureを感じること』

これがしつけの要諦です。