第100回 『見極める重要性』

キンモクセイの香りと虫の音に癒され、ベランダにつるされている干し柿に日本の伝統美を感じ、自治会の集会所から聞こえてくるご婦人方の唱歌に国体護持の重要性を再認識される。気付けば10月も終わろうとしている。季節の変わり目、特にこの時期はセンチな気分になりがちであるが、毎日充実し、気力も体力も漲っているからか郷愁を感じる隙間もないぐらい働かせていただいている。

9月の初旬から15才の老犬をお預かりしていたが、先日無事に飼い主さんのもとへお返しする事が出来、ホッとしている。2か月近く何事もなく管理出来た事で安堵安堵である。「助かりましたぁ、ありがとうございましたぁ。」と喜ばれる飼い主さんを見て、『愛犬のお預かりで人様のお役に立つのもいいもんだな。』という気持ちも出てくるが、やはり私の本分はしつけ指導・問題行動改善である。難解な問題を抱えている犬や癖の強い飼い主(失敬)と向き合っている時に最も生きがいを感じる。

私はよく『冷静な心の重要性』を飼い主に説く。はっきり言うがしつけや問題行動改善に技術は不要である。あるに越した事は言うまでもないが、無くても何とでもなる。無くすと困るのは冷静な心である。動物の世界には落ち着きのないボスは存在しない。すぐに不安になるボスは存在しない。転じて人間の世界はどうか。信念のない課長。すぐにイライラする部長。自己保身に走る社長。責任転嫁ばかりする係長。恥ずかしくて目も当てられない。動物には肩書など通用しないのである。冷静な心から発せられるエネルギーによって、従う心が芽生え、規律と運動によって精神が安定し、それらの継続により様々な問題行動は霧消するのである。

現在は情報社会である。誰でも情報を発信できる時代である。それすなわち『取るに足らない情報や薄っぺらい情報』が氾濫しているという事だ。多くの飼い主と向き合っていると情報に溺れている方がいかに多い事かと感じる。

先日もフードアグレッシブに頭を抱えている方から問い合わせがあったので見に行かせていただいたのだが、「フードアグレッシブが凄くて・・・。」と電話口で聞いた時点で『情報洪水の被害者やな・・・。』と感じた。話を伺うとやはりネットの情報を調べてしつけをしていく内にどんどん酷くなってきたとの事。状態はかなり酷く、エサの準備をしているだけで怪しい雰囲気になり、食器を持って近付くと唸り始め、食器を置くか置かないかっていうタイミングで噛みついてくる。実践で大人しくさせる事を飼い主に見せるとポカンとされていたが、メカニズムを説明すると更にポカンである。そりゃそうだろう。洪水に呑まれた方にとっては私の説明はほぼ初耳だろうから。私の考え方ではフードアグレッシブとはパニック障害である。勿論先天性ではなく人間が作った後発性のものである。それを治すには冷静な心が不可欠である。冷静な心の構成要素は『信念』と『勇気』である。技術はおまけだ。

どうか洪水に呑まれる事なく、信念と勇気を確立し、冷静な心を醸成していただきたい。私も生涯をかけて冷静な心を堅持する努力を惜しまない所存である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です