第88回 『愁』

秋である。もうすっかり秋である。キンモクセイの香りが鼻腔をくすぐる気持ちの良い季節である。と、同時に秋は何となくセンチな気分にもなる。郷愁、哀愁という漢字からも分かるように、やはり昔から秋という季節は人をノスタルジックと言うか物悲しい気分にさせてきたものらしい。太古の人間と同じ気分に浸れるとは何とも歴史ロマンを感じるではないか。よし、ここらで一句。

『イモ食えば ガスが出るなり 大量に』

・・・・正岡子規に祟られそうなのでもうやめとこ。

9月初旬からお預かりしていた犬を無事に飼い主の元にお返しする事が出来、大変ホッとしている。一か月半もの間神経を使いながら世話していたので疲れたが、色々な事を学ばせていただいた。また一つ成長出来た事に喜びを感じる。やはり人間は歯を食いしばる時期を経て成長出来るものなのだ。

日々、一癖も二癖もある犬と向き合っているが、今月からかなり重症の犬達と関わらせていただく事になった。四匹飼われている多頭飼いで、その内二匹は過去に犬のようちえんや警察犬訓練所と計三か所にお世話になったらしいがいずれも全く成果が出ずに終わり、今回縁あって私の元に連絡が入った次第である。どのような指導やアドバイスを受けてきたのかをお聞きしたが、内容の杜撰さに愕然となった。私もかつて警察犬訓練所で修行していた人間なのでやるせない気持ちになる。

何故もっと勉強しないのか・・・。

何故もっと研究しないのか・・・。

何故もっと飼い主と真摯に向き合わないのか・・・。

郷愁。

哀愁。

訓練士業界について思いを巡らす時、湧き上がる感情をこれ以上的確に表現する言葉を、私は知らない。

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