第97回 『蝉礼賛』

先月末から夏時間で動いている。昼間の暑い時間を避ける為、午前中は早朝4時過ぎには飼い主さん宅に到着し仕事を開始し9時半には切り上げるようにし、午後は17時頃から始め、終わるのはだいたい20時過ぎ、遅い時は21時近くになる。とても疲れるスケジュールだが、習慣とはエライもんで10年以上やってると当たり前になり、体はすぐに慣れる。先日の事である。その日も20時過ぎに仕事を終え、飼い主に対する指導法を考えながらの帰路、ふと前方に視線を向けると何やら小さい生き物が電灯に照らされ動いている。『何やろう?』と思い近付いてみると何と脱皮したばかりの蝉である。脱皮直後の蝉が真っ白いのにも驚き目を奪われたが、その蝉が真っすぐ木に向かっている姿に深く感動した。一秒も無駄にせず、自分がやるべき事に打ち込む姿勢に美を感じ、無意識の内に私は蝉に向かって合掌していた。他人が私のその姿を見たら奇異の念を抱いたであろうが、そんな事私はどうでもいい。美しいものに畏敬の念を抱く心を持つ事の方が私には価値があると思う。合掌出来る両手がある事に深謝である。

その蝉の姿を瞼に、脳裏に焼き付けながら『あの蝉のように美しく、説得力のある存在になりたい。』と念じながら家路についた次第である。

子供の情操教育の為には虫取りも必要なのかもしれないが、同時に小さな命にも人の心を動かす力があるという事を世の親御さんや教師には教える義務があると思う。

山川草木悉皆成仏。

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