第27回 「秋なので」

日々生活していると色々な事がありますね。人の言動や、やらなければならない仕事や用事等に翻弄されて、心が右へ行ったり左へ行ったり・・・。なるべく心の針をブラさずに真っすぐ保っていきたいというのが多くの方の想いではないでしょうか。心の軌道修正ですね。人それぞれ軌道修正の方法があるかと思いますが、私の場合は読書です。

先日、飼い主さんから「何かオススメの動物関連の本はないですか?」と聞かれ、迷わずオススメしたのがコンラート・ローレンツの『ソロモンの指環』。1963年に出版されたのでもう50年以上前の古い本になりますが、動物関連でこれを超える本はないと思います。この本と出会った事で、それまで関心のなかったカラスや昆虫、魚等にも愛情の目を向ける心を養う事が出来るようになりました。この本を読むと私はいつも心の軌道修正が出来ます。

どのページを開いても名文が散りばめられていますが、なかでも一人でも多くの愛犬家に読んでほしい一文がありますので抜粋致します。

『擬人化してものを考える人達は、えてしてこんな風に信じ込む。動物はそのように内に秘められて口には出されない想いさえ見抜く事が出来るのだから、愛する主人の語る言葉ならなおさら理解するに違いないと。だがこう考える人々は、どんなわずかな表現運動でも理解出来るという社会性動物の能力は、まさに彼らが言葉を理解出来ないからこそ、話す事が出来ないからこそ発達したのだ、という事を忘れている。』

これまで多くの動物関連の本を読んできましたが、これを超える名文には出会ってません。動物と向き合う時にこれ程役立つ名文はないでしょう。

読書の秋です。一人でも多くの方にこの本を手にとっていただき、心の軌道修正の一助になれば幸いです。

第26回「再会・再開」

キンモクセイの香りがなんとも心地良い季節になりました。もう10月。早いですね。

数年前に訓練を終えた犬の世話を今月から再スタートしました。「言う事を聞かなくなったからまた見てほしい。」と飼い主さんから9月の末に連絡が入り、10月になるのを待ってもらい今月から再開という事になった次第です。

一度訓練を終えた犬の訓練をまたさせていただけるというのはありがたい事です。「あそこの訓練士はアカン。」で終わるのではなく、「またあの訓練士に見てもらおう。」と思っていただけるというのは、目指すべき訓練士像ではないかと思ってます。

で、肝心の犬ですが、うん、確かに悪くなってる・・・。落ち着きがない、グイグイ引っ張る、マテが出来ない・・・。一言で表すなら忍耐力が全くない。でもね、犬はちっとも悪くないんですよ。犬は飼い主の心を映す鏡ですからね。再開して一週間になりますが、コロッと変わりました。ちゃんと人間に合わして動く忍耐力が甦り、表情もまるくなりました。残りの期間でさらに良くしていきながら飼い主さんへのアドバイス・指導ですね。

教育する・指導する難しさ、楽しさ、喜びを日々感じながら初秋の空気を堪能している今日この頃です。

第25回 「共有する為に」

9月に入り、暑さもいくぶんマシになり過ごし易くなってきましたね。今夏も一頭も熱中症にかかることなく乗り切る事が出来、ホッとしております。

毎年、春先から8月にかけてひどいアレルギー症状に苦しめられる犬がいるのですが、私自身が取り入れている健康法の一環である食事療法により今年は全くアレルギー症状が現れず快適に過ごす事が出来、、飼い主さんと喜びを分かち合うことが出来ました。昨年の秋ごろから私の指示を守っていただき、厳しい食養生を可愛い愛犬に課すという難行を飼い主さんが頑張ってくれた結果です。また、その犬は約2週間前に耳血腫というやっかいな疾患に見舞われたんですが、それも食事療法できれいにあっさり完治しました。数万円、場合によっては十数万円かかる疾患ですが実質タダで済みました。飼い主さんと喜びを共有する事ほど幸せなことはありませんね。

私が目下、メインに取り組んでるのが『てんかん』と『噛み癖』です。てんかんは現代医学では不治の病とされていますが、そんな事はないと考えています。脳の疾患と捉えるから不治とされているのであって、着眼点を変えれば完治すると確信しております。噛み癖も今までとは違う着眼点で向き合っております。共に一年以内には確たるモノが出来上がりそうでワクワクしてます。

一人でも多くの飼い主さんと喜びを共有したいですねぇ。

もうしばらく暑い日もあるでしょうが、明るく過ごしてまいりましょう。

第24回 「摂理に従う」

先日とある番組内でモンゴル遊牧民の生活が紹介されており、内容がとても面白いので食い入るように見ておりました。羊を飼育・制御する為に犬を仕事のパートナーとして訓練しなくてはいけません。仔犬の頃からの飼い方や訓練法が一見手荒に見えるのですが、非常に理にかなっていて感銘を受けました。人と犬との心と体のぶつかり合いが展開され、そこにはテクニックと呼べるようなものはなく、むしろそのようなものが陳腐に思える程でした。

自然の摂理に従って生きる人達は動物の扱いが上手いですね。当たり前のように犬との上下関係をつくり、犬を共に生きる仲間として接しています。そして犬の表情が美しい。イキイキとしている。犬も人間同様に厳しい環境に身を置くと細胞が活性するんでしょうね。人間が自然の摂理に従った生き方をしていれば犬は人間に従うようになるのです。訓練士のみならず一般愛犬家も肝に銘じておくべきだと思います。

犬が何かしら問題行動をしでかした時は、自分自身が自然から逸脱し過ぎた生活をしていないかを省みる必要があると思います。自分の日常の生活習慣を振り返り、自然の摂理に反した行動を数えてみて下さい。大多数の人が(もちろん私も含めて)両手では足りないぐらいだと思います。

第23回 「18日」

今日はとある犬の月命日です。私にとって忘れる事の出来ない、とっても思い出深い犬でした。15年近く関わらせていただき、その間に訓練競技会にも数多く出陳し、多くの賞を受賞し訓練士としての自信を与えてくれました。

その犬との初めての出会いの光景はよく覚えております。車からブワッッ!!!と飛び出し、もんのすんごいエネルギッシュに草木の匂いを嗅ぎ回りながら放尿・放尿・また放尿。これでもかっ!!!てぐらいの放尿。とにかくヤンチャで落ち着きゼロ、って犬でした。力も強く、その犬の訓練は骨の折れる作業の連続でしたがとても楽しかったです。その犬とのボール遊びや訓練が生き甲斐でもありました。

しかし命あるものの定めに抗う事は出来ません。9歳を過ぎた頃から白髪が目立ち始め、動きも緩慢になりました。「お前でも年取るんやなぁ。」などと言いながらのんびり歩いたものです。

15年間四季を共にし、あらゆる場面を共有し、様々な経験をさせていただきました。死に目にも遭え、葬儀場まで運ぶ事も出来ました。飼い主さんの「あなたには長い事お世話になりました。本当にありがとう。」の言葉は私の財産です。

訓練士は犬に生かされ、犬から多くの事を学びます。これからも私は多くの犬に生かされ、多くの事を教わるのでしょう。

今は亡き犬の写真を見ながら様々な事に思いを馳せる今日この頃であります。

第22回 「夏へ向けて」

すっかり暑くなりましたね。毎年のごとく梅雨らしい梅雨もなく、このまま夏本番へ突入の観を呈しております。この時期になると必ずある事を致します。愛犬マックスのサマーカットです。毛の長い犬の暑さであえいでいる姿を見るのはなんとも心苦しいものがあります。ましてや大切な愛犬であればなおさらです。昨年まではハサミで約2週間かけて切っておりましたが、その労力たるや筆舌に尽くしがたい程(大げさ)なので今年はバリカンでやる事に。

懇意にさせていただいているペットショップの店長さんにお聞きして、トリマーさんおすすめのバリカンを購入し、早速実行。アッと言う間にスッカリきれいにサマーカットが完成しました。ハサミだと2週間かかるのにバリカンだと30分・・・。もっと早く導入するべきだった・・・。

ま、何はともあれスッキリしたマックスを見ていると「今年も夏がはじまるぞぉ!!頑張るぞぉ!」という思いに駆り立てられます。

皆様も熱中症には気をつけて夏を乗り切りましょう!

 

最後に

この度の豪雨災害で惜しくも命を落とされた方々に心からのご冥福をお祈り申し上げます。一日も早い復興を祈念致します。

第21回 「犬種選び」

愛犬を散歩させていると「ボーダーコリーですかぁ、かわいいですねぇ、頭良いんですよねぇ。」的な言葉をよくかけられます。ボーダーコリーは頭が良いで有名ですからね。世人の多くは「頭が言いイコール飼い易い」と思っているフシがあるように見受けられます。私はそれに対して待ったをかけたいです。「頭が良いイコール飼い易い」はあまりに短絡的に過ぎます。実際、ボーダーコリーを飼っていたけど手に負えなくなって手放さざるを得なくなった例をいくらか見てまいりました。(愛犬マックスもその内の一頭です。)

頭が良いイコール飼い易いではなく、おとなしいイコール飼い易い、です。もしくは飼い主の生活習慣や環境、及び考え方や価値観等が犬と適合するかどうか、です。

「頭の良い犬ランキング」みたいな薄っぺらい記事や情報に惑わされず、自分の考えや生活環境に適した犬種は何かを勉強し、時には専門家の意見も取り入れ、慎重に真剣に選んでいただきたいです。

犬を迎え入れるというのは、その犬の一生を左右する事です。飼い主になる方の人生を左右する事です。頭が良いイコール飼い易い、という考えは捨てましょう。

第20回 「グチ・・・。」

愛犬家や犬好きの人達の行動で「やめてほしいなぁ。」と思っていることがいくつかありますが、今回はその内の一つを書こうかと思います。

初対面の犬やあまり慣れてない犬の頭を上からゴシゴシなでる行為、これダメです。支配的な犬だとこれだけでガブッ!!といく事もあります。

先日も愛犬のマックスを散歩させてる時に犬好きマダムが「わあぁぁ!!かわいいねぇ!!」と騒々しい(失敬)エネルギーを発しながらマックスの頭をゴシゴシしてきました。マックスはそのマダムに対して心を開く準備が出来ていないのに・・・。マックスは困惑、私は不快、喜んでるのはそのマダムだけ。よほど注意しようかと思いましたが、私は顔が怖いらしく、普通に注意やアドバイスをしても相手に威圧感を与えるらしいので(妻証言)やめておきました。

慣れてない人が犬の頭を上からゴシゴシなでる行為がダメな理由の詳述はここでは省きます。犬同士の触れ合いを観察していれば答えは見つかります。

私はプライベートではよそ様の犬をさわったりしません。微笑みかけたり、声をかけたりはしますが基本的にはさわりません。それは犬の心理を尊重しているからです。犬という動物はあまりにも身近になり過ぎているので改めて犬の心理や習性を勉強しようとされる方は少ないのは承知してますが、それでも少しは勉強してほしいと思います。犬に対する概念をこわしてほしいと思います。

今回は、ちょっとした私のグチでした・・・。

第19回 「道を拓くのは」

6歳になるオスの柴犬。週3回の出張訓練で関わらせていただいてもうすぐ2年になります。体をさわると嚙む。首輪の付け替えの時に嚙む。エサをあげる時に嚙む。めちゃめちゃ神経質。初対面の時に私は脛を嚙まれ「出張訓練でどこまでのことが出来るやろう・・・。」と、その犬の訓練・しつけのハードルの高さに暗澹たる気持ちにさせられました。飼い主様にも正直に説明しましたが「とりあえず出来るところまでやってほしい。」という言葉にスタートしました。

当初は毎回毎回神経をすり減らす作業の為かなりのエネルギーを持っていかれました。「もう無理かも・・・。」という気持ちになった事も数回ありました。が、「この犬を救いたい。」「飼い主様の信頼に応えたい。」という思いを二本柱として一所懸命に励みました。

熱意は通じますね。熱意は困難を打破しますね。熱意は道を拓いてくれますね。エサをあげる時はちゃんと座って待つようになり、リードの付け替えも容易に出来るようになりました。「今日は脚側行進をメインにしよう。」「今日は伏せて待てを5分に伸ばそう。」そういう事を考えながらワクワクしてる日々です。

道を切り拓くのは熱意。技術や理屈は二の次。まず行動する事。書物から得られる教えも素晴らしく、大切ですが実体験から得られる教えにはかないませんね。

行動・行動・行動。今日もなんやかんや行動しまっせ!!

第18回 「日に三省」

私は毎日日記をつけております。プライベートな日記ではなく訓練士としての日記です。

訓練の内容、犬の行動や体調の変化、飼い主さんとのやり取りで気になった言動等、あれやこれやを書き続けております。独立してからずっと続けているのでもうかれこれ10年近くになります。

わが身を省みるというのはいいものです。犬の訓練やしつけに行き詰まった時に「そういえばこの犬に似た犬が過去にもいたな、あの時はどういう訓練をしたっけ?」と過去の日記を読み返し突破口を開いた経験は一度や二度ではありません。

過去を前向きに振り返り、現在にしっかりと足をつけ、未来を見つめる。私の処世訓の一つであります。

さ、今日あった出来事もしっかりと記していこう。