第35回 「水無月雑感」

連日暑い日が続きますね。熱中症で運ばれる人達のニュースも早や報道されております。私が学生の頃の5月、6月はこんな事なかったような気がしますが・・・。地球の温暖化だの、いや実は寒冷化だの、大地震の前触れだの何だか心落ち着かない話が耳によく入ってきて気分が暗くなります。

それはさておき、今年も私は愛犬マックスの毛をバリカンでバッサリやりました。サマーカットです。毛が長い犬にとっての熱中症対策の一つにサマーカットは必須ですね。毎度の事ですが、刈った直後はいつもと感覚が違うのか、やたらとテンションがハイになります。特に風が吹いた時にめちゃめちゃ楽しそうにはしゃぐ姿がなんとも微笑ましい光景です。今年で13才になる老犬なのに、仔犬のような振る舞いに癒されます。

そんなマックスですが、約2か月前から近所のある犬にやたら攻撃的な態度を見せるようになりました。その犬には元々無反応だったのに・・・。私も最初は原因が皆目見当がつかず、叱りつけていたのですが、先日ふと思う事がありその犬の飼い主さんに「すいません、その子どこか体調が悪くないですか?」とお尋ねしたところ、何とガンを患っているとの事。なるほど。合点。どうやらマックスはその犬から出るがん細胞の負のエネルギーに反応していたんですね。飼い主の発作を事前に察知したり、ガンを発見したりする犬と同じ反応を示していたわけです。我が愛犬ながら感心させられました。

微笑ましい光景に癒されたり、不思議な能力に感心させられたりと犬の魅力を改めて感じている今日この頃です。

皆様、熱中症にはくれぐれもご注意を。

第34回 「しつけ教室に関する見解」

ここのところしつけ教室に関する問い合わせが相次いでます。「そちらではしつけ教室は開催してますか?」ってな感じですね。

私はしつけ教室はやってませんし今後もやるつもりは全くありません。訓練所での修行時代にしつけ教室の限界を痛感したからです。しつけ教室で出来る事は限られています。基本訓練程度です。参加者全員が基本訓練を望んでいる場合はよろしいかと思いますが、参加者の悩みは千差万別のケースがほとんどです。様々な悩みや要望を持った人達が一同に介して、限られた時間にニーズに応えるなんて不可能です。周りに気後れして聞きたい事があっても聞けない方もおられますし。中途半端な事はしたくありません。

しつけ教室を真っ向から否定する気はありませんが、しつけ教室にお金と時間をかけるよりも、自己を高める方法、自己を律する術を学び、習得する努力をされた方が賢明です。自己を律する事が出来る人に対して、犬は自然と服従するようになりますから。基本訓練が出来るようになったから服従する、ではないんですよ。

第33回 「概念・一石」

『エサ』は『ごはん』または『フード』、『寝床』は『ベッド』、『ジャーキー』は『おやつ』または『ごほうび』という概念・言葉があるのに『犬小屋』や『サークル』には『犬のおうち』または『犬の休息所』という概念がない事に警鐘を鳴らしたいと常に考えています。

なぜ『犬小屋』や『サークル』には『犬のおうち』という概念がないのか?私が思うにそれは『犬小屋に閉じ込めるのはかわいそう』とか『サークルに入れっぱなしはかわいそう』という思いからきてるのでしょう。愚の骨頂です。そんな誤った考えは取っ払いましょう。その考えや感覚が無駄吠えや分離不安や噛み癖につながる事を理解しましょう。

犬小屋やサークル内で大人しく出来ない犬はほぼ例外なく様々なトラブルを抱えてしまいます。忍耐する心が育たないからです。授業中ジッと出来ない人間の子供と一緒です。

本当の自由・本当の幸福は忍耐なくしてありえません。何の束縛もなくやりたい放題する事が本当の自由・本当の幸福ではありません。それは人間も同じですね。

連日、人間性の崩壊を思わせるようなニュースが後を絶ちませんが、犬の問題行動に通ずるものがあるなと感じています。忍耐する事を教える事と、虐待のボーダーラインがあいまいになっているこのイカレタ世界に一石を投じていくのも訓練士の使命だと思うのですが、いかがでしょう?

第32回 「初春雑感」

梅の花が散り、桜の蕾がふくらみ始め春がすぐそこまできましたね。メジロのつがいが梅の木に止まり楽し気に語り合っている光景がとても好きな私は、桜が待ち遠しい気持ちと梅の花が散る寂しさが入り混じったなんともセンチな気分になります。まさしく諸行無常。日々の暮らしの中でも随所にお釈迦様の教えが胸に響きます。

約二か月前から9才の柴犬の散歩代行をしておりました。飼い主さんが足を怪我されたので、その間の世話を頼まれた次第です。引っ張り癖がひどく、80才を目前に控えた飼い主さんには大変だなと思い、ついでに引っ張り癖のしつけもしておりました。9才なので悪い癖がしみついておりましたが、二か月間毎日毎日私が世話するのですっかり改善しました。家を出る時も門の前でちゃんと座り、人間が先に出るまで待つようになり、心の穏やかな犬になりました。

引っ張り癖の発生メカニズム、治し方、犬と向き合う時の心の持ち方、リードの持ち方等を指導させていただき、今では足が回復した飼い主さんが快適に散歩してるようで、今朝もお喜びのメールをいただきました。ありがたい事です。

訓練競技会で好成績を目指す喜びもありますが、問題行動の研究やしつけの勉強がおろそかになるようでは訓練士の存在意義はないと私は考えております。

同志が集い、悩める愛犬家の為の研究会みたいなものを自らが発起人となって発足するのが私の夢の一つであります。

勉強、研究は楽しいものですぞ。

第31回 「ネギから学ぶ」

私の家の食卓には毎日お味噌汁が並びますが、具材の中で欠かせないものがあります。それがあるのとないのとでは全く印象が異なってきます。なくても勿論美味しくありがたくいただきますが、それがあるとグッと味が引き締まって味噌汁のパワーが二倍にも三倍にもアップしてるんじゃないかと思われる程です。

それとは何か。ネギです。家から車で2、3分のところにある無人販売所で売られているネギです。私の家ではよくその販売所でネギやその他色々なお野菜を買わせていただいてます。

完全無農薬で化学肥料は一切使用していないそのお野菜を作っているのは一人のおばあさん。ジブリ作品から出てきたかのような風貌と出で立ちのおばあさん。そのおばあさんと会話を交わしていると毎回毎回心が洗われていくのを感じます。完全無農薬という事に信念と誇りを持って野菜作りに励んでおられる姿勢とエネルギーに感動するのです。『一事を続ける』ことの大切さをおばあさんの野菜は教えてくれます。

どんな仕事でもいいと思うのです。目の前の自分に与えられた仕事を誠実に、明るい心で一つ一つ打ち込めば世の中は明るい方向へ向くのではないでしょうか。おばあさんのネギをいただく度に、その事を強く思うのです。私は犬の訓練士という仕事を通して、世の中の片隅を照らす光明になりたいと思っております。

今日も美味しくありがたく、ネギをいただきます。

第30回 「禅の心で」

新年がスタートして早や一か月が過ぎようとしております。早いなぁ。ありがたいことに私は毎日多忙の日々を送っております。どれだけ忙しくとも、小さな喜びや感謝の心を失わないようにと励んでおります。

今月からとある犬のしつけがスタートしまして、その犬にリードをつけて歩いている時に突然『歩行禅』という言葉がパッと出てきました。どうしてそんな言葉がそのタイミングで出てきたのかわかりませんが、あまり深く考えず、仏さまからのメッセージと受け止め、『歩行禅』をテーマに引っ張り癖の矯正の応用に取り組み始めました。今までの引っ張り癖のしつけ方法の概念がガラガラと音を立てていく体験をしております。新しい『引っ張り癖の矯正法の確立』が自分の中で出来上がっていく感覚がワクワクです。ただこれを飼い主さんに実践していただくにはまだまだ時間はかかりそうです。誰にでも実行出来るように合理的にまとめる作業が必要ですね。

学ぶ楽しさを毎日感じてます。

本年も、マイペースで更新してまいります。

第29回 「年の瀬のご挨拶」

今年も残すところあとわずかとなりました。早いですね。

今年は犬の健康管理と体質改善についての勉強の成果があらわれ、新境地を拓く事が出来、飼い主さんにも大変喜ばれ、私自身にとっても喜びと驚きの年となりました。来年の今頃は、噛み癖とトイレのしつけに関する新しいアプローチを、飼い主さんにとっても実践し易い、合理的な方法をまとめる事が出来てると思います。今年の下半期はその準備をずっとしておりました。今からワクワクしております。

今年も一年間ありがとうございました。

皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

第28回 「狭き門を・・・」

病気や体調不良ばかりで薬と縁を切る事が出来ない犬がいます。関わらせていただいて8年目になります。ここ数か月は特に体質が悪くなってます。飼い主さんも頭を抱えてます。現代医学だと投薬するしか術がないので仕方なく薬を飲み続けてるわけですが、しかし薬を飲んでも体質が変わる事は絶対ありません。体質を改善するには努力が必要です。『行』と言い換えてもいいぐらいの努力です。

約2年前から『行』の内容を小出しにして飼い主さんに説明してきましたが、そのハードルの高さに気後れして、一歩を踏み出せず、なるべく楽な方へとズルズルここまできました。しかし一向に改善しないのと、かわいい愛犬に投薬するのが忍びないというので、ようやく重い腰を少しだけ(ほんの少しですが)上げてくれるようになりました。喜ばしいことですが前途は多難です。真理へと至る門は狭く、道は細く険しいのです。

飼い主さんが、かわいい愛犬に『行』を強いる生活をどこまで続けていく事が出来るか。

それをサポートするのも、訓練士の大切な仕事です。

日々、精進です。

第27回 「秋なので」

日々生活していると色々な事がありますね。人の言動や、やらなければならない仕事や用事等に翻弄されて、心が右へ行ったり左へ行ったり・・・。なるべく心の針をブラさずに真っすぐ保っていきたいというのが多くの方の想いではないでしょうか。心の軌道修正ですね。人それぞれ軌道修正の方法があるかと思いますが、私の場合は読書です。

先日、飼い主さんから「何かオススメの動物関連の本はないですか?」と聞かれ、迷わずオススメしたのがコンラート・ローレンツの『ソロモンの指環』。1963年に出版されたのでもう50年以上前の古い本になりますが、動物関連でこれを超える本はないと思います。この本と出会った事で、それまで関心のなかったカラスや昆虫、魚等にも愛情の目を向ける心を養う事が出来るようになりました。この本を読むと私はいつも心の軌道修正が出来ます。

どのページを開いても名文が散りばめられていますが、なかでも一人でも多くの愛犬家に読んでほしい一文がありますので抜粋致します。

『擬人化してものを考える人達は、えてしてこんな風に信じ込む。動物はそのように内に秘められて口には出されない想いさえ見抜く事が出来るのだから、愛する主人の語る言葉ならなおさら理解するに違いないと。だがこう考える人々は、どんなわずかな表現運動でも理解出来るという社会性動物の能力は、まさに彼らが言葉を理解出来ないからこそ、話す事が出来ないからこそ発達したのだ、という事を忘れている。』

これまで多くの動物関連の本を読んできましたが、これを超える名文には出会ってません。動物と向き合う時にこれ程役立つ名文はないでしょう。

読書の秋です。一人でも多くの方にこの本を手にとっていただき、心の軌道修正の一助になれば幸いです。

第26回「再会・再開」

キンモクセイの香りがなんとも心地良い季節になりました。もう10月。早いですね。

数年前に訓練を終えた犬の世話を今月から再スタートしました。「言う事を聞かなくなったからまた見てほしい。」と飼い主さんから9月の末に連絡が入り、10月になるのを待ってもらい今月から再開という事になった次第です。

一度訓練を終えた犬の訓練をまたさせていただけるというのはありがたい事です。「あそこの訓練士はアカン。」で終わるのではなく、「またあの訓練士に見てもらおう。」と思っていただけるというのは、目指すべき訓練士像ではないかと思ってます。

で、肝心の犬ですが、うん、確かに悪くなってる・・・。落ち着きがない、グイグイ引っ張る、マテが出来ない・・・。一言で表すなら忍耐力が全くない。でもね、犬はちっとも悪くないんですよ。犬は飼い主の心を映す鏡ですからね。再開して一週間になりますが、コロッと変わりました。ちゃんと人間に合わして動く忍耐力が甦り、表情もまるくなりました。残りの期間でさらに良くしていきながら飼い主さんへのアドバイス・指導ですね。

教育する・指導する難しさ、楽しさ、喜びを日々感じながら初秋の空気を堪能している今日この頃です。