第45回 『初春雑感』

私の愛犬は今年で14才になります。ボーダーコリーで14才は長寿の方だと思います。元々気性が荒いところもあるせいか、年のわりには若く見え、食欲も衰えず元気です。とはいえどこも悪くないかと言うとそうでもなく、視力、耳、足腰の衰えが見られるようになりました。人間の年齢に換算すると70才前後になるので致し方なし、といったところでしょうか。

大切な存在が老いていく様を見るのはさびしいものです。満開の桜がいつもと違って見えるのは、連日騒がしているコロナのせいだけではないような気がします。

あとどれだけの時間を愛犬と共に出来るかは分かりませんが、少しでも楽しく、穏やかに過ごさせてやりたいと願いながら一生懸命世話をしていこうと思う今日この頃です。

第44回 『ほめるか叱るか論争はナンセンス』

先日、ある飼い主さんとしつけについて会話を交わしている時に『ほめてしつけるのが正解か、叱る方が良いのか。』の話題になりました。このテの論争は昔からありますね。過去には「そちらはほめてしつける方法ですか?」との問い合わせをいただいた事もあります。

私は『ほめてしつける』とか『叱ってしつける』という言葉が嫌いです。どこか違和感を感じるんです。何か作為的なものを感じるんです。しつけって、相手と真っすぐ向き合う事だと思います。真っすぐ向き合えば必ず衝突します。でも、衝突なくして進歩なしです。ほめる時はほめ、叱るべき時は叱る事が自然と出来るようになります。エサは極力使いません。言葉を教える時や、犬の緊張をほぐす時に少し使うぐらいです。エサは使い方を間違うと犬を興奮させたり、エサがないと言う事を聞かなくなったり、犬の本能を引き出したりと、毒になる事も多いんです。エサを多用したしつけは『しつけ』ではなく『誘導』です。

今月から2才のオスの柴犬のしつけをさせていただいております。少し支配的で、逃亡癖があり、一度人を嚙んでしまってます。人を見ると興奮し、平気で甘噛みをしながら飛びつき、少し叱っただけで逆ギレします。こういう犬には徹底的に忍耐する事を教えていきます。ゆっくり、優しく、だがきっちり繰り返し教え込みます。ドアを開けるとロケットスタートを切る行動をやめさせるしつけの時に足を嚙んできました。でもひるまず、冷静に毅然とした態度で向き合っていると大人しく、穏やかにドアを開けても待つようになりました。服従する事を学ぶと犬は穏やかなエネルギーに変化していきます。今は横につかせて穏やかに人間に合わす事を重点に教えています。反抗して足に嚙んできたり、首輪をひっこ抜こうとしますがひたすら辛抱です。辛抱して、犬に辛抱を教え込みます。それがしつけだと思います。

ほめてしつけるか、叱ってしつけるか、なんて考えずに真っすぐ向き合う事を考えましょう。それが答えです。

第43回 『チャレンジは宝』

先月から中型犬の雑種君に物品持来という訓練をしています。私の中では基本訓練で一番難しい科目だと思っています。持来欲が旺盛な犬であれば比較的スムーズに教えられますが、その犬は全く持来欲が無い為、強制持来で教えていかねばならないので更にハードルがグッと上がります。しかも週二回なので更にハードルが上がります。挑戦ですね。ありがたい事です。難しい事にチャレンジさせていただける機会を与えてくれた飼い主さんに感謝です。

日々の生活や人生に潤いをもたらす為には色々な要素があると思いますが、その一つにチャレンジがあると思います。嫌な事から逃げないとか、難しい方の道を選ぶ等ですね。そのチャレンジ精神を支える三本柱は努力と勇気と情熱ではないでしょうか。

自分の道を切り拓くのは自分。その自分を支えてくれるのは努力・勇気・情熱。それを教えてくれる犬と飼い主さんにただただ感謝です。

第42回 『私の新年スタート』

2020年もスタートして早や一か月が経とうとしております。私はいつも通り元旦から仕事をしておりました。ありがたい事です。

2020年はとある飼い主さんと意見のぶつかり合いで幕が開けた、って感じです。(笑)出張訓練の難しさを感じながらも、意見やクレームをいただける喜びも同時に感じております。成長出来るチャンスを逃がさず、逃げずに向き合っていきたいですね。

先日、犬用の訓練道具をネットで検索していた時に偶然良い本に巡り合えました。『イヌの博物図鑑』。アーダーム・ミクローシという方が書かれた本ですが、内容が実に素晴らしいです。一人でも多くの愛犬家に読んでいただきたいです。

犬に関する本は新たに買う事はないと思っていたタイミングでの出会い、そして飼い主さんとの衝突・・・。『もっともっと勉強せなアカンぞ!!』と神様仏様から叱咤されてるような・・・。私の2020年はこんな形でスタートしております。

本年もよろしくお願い致します。

第41回 『師走の御挨拶』

早いもので今年も残りわずかとなりましたね。早いなぁ。年を重ねる程月日の流れが早く感じると言われておりますが本当ですね。今年も多くの犬と飼い主さんとの御縁に恵まれ、色々な事を考えさせられ、学び、成長させていただきました。

一つ一つ振り返ると、後悔の念が多くなるのは残念でもあり、自分の未熟さにため息をついてしまいますが、七転び八起きの精神で肥やしにしていくしかないなと日々気持ちを新たにしております。

先月からとある本を読み直しております。テンプル・グランディン著の『動物感覚』。20代の頃に熱中して読んでいた本ですが、ふとまた読みたくなったのでパラパラとページをめくっていると止まらなくなりました。『こんなにおもろい本やったか?』と思うぐらい熱読しております。20代の頃には感じることのなかった感覚を素直に喜び、幸せを感じております。この本から得られる知識を己の技術へ昇華させ、一人でも多くの犬の飼い主さんへ還元していく所存です。

と、まぁ簡単で拙い文ではありますが、年の瀬の御挨拶とさせていただきます。

来年もよろしくお願い致します。

皆様、どうぞ良いお年を。

第40回 「スキをなくす努力」

要求吠えで困っている飼い主さんは多いですね。今回は要求吠えについて私見を述べていこうと思います。

散歩の催促で吠える、エサやオヤツの催促で吠えるの二点が大方のケースかと思います。人間の子供が「オヤツ買ってぇぇ!」とせがんでいる光景に出くわす度に『犬の要求吠えと一緒やなぁ。』と感じています。

我が家の愛犬も妻には要求吠えをしますが、私には絶対しません。何故要求吠えをするのか?答えは簡単、スキがあるからです。要求される方にスキがあるから。『この人に要求したら聞いてもらえる。』と思わせるスキです。そのスキを無くすにはどうすればいいか?自然の摂理からなるべく離れず、己を律する生活を心がける事です。

食べすぎ、飲みすぎ、喫煙、テレビの見過ぎ、部屋が散らかっている・・・等々、日常生活で己を律する術はいくらでもあるので何か一つでも実践する事をおすすめします。

それからもう一つ、型から入るという事も同時に実行していく事も大切です。散歩の時に横につかせて歩く時間をつくる、座らせて待つ事を教える等です。基本訓練ですね。基本訓練の目的は、犬を服従させる感覚を飼い主さんに肌で感じてもらう事です。そこから何かをつかんで犬との上下関係を構築させるキッカケになってほしいと思います。

吠えたら叱る、で治る程簡単ではないんですね。

最後に一点付記します。散歩に全く連れて行ってもらえない犬がクンクン鳴いている場合は除外します。それは虐待であり、全くもって論外です。

第39回 「信頼」

首の周りを触ろうとすると噛みついてきたり、首輪の付け替えが困難な犬と向き合っていると色々と考えさせられます。我々人間からすればたかが首輪の付け替えやリードの付け外しという行為が犬にとっては最大の急所である首を人間にあずける、おまかせするという行為なんですね。首輪の付け替えやリードの付け外しが容易に出来るという事は、それだけその犬が人を信頼しているという事。おまかせしているという事。

その信頼に応えているのか?その信頼に値することを犬に返してあげているのか?私を含め全ての犬の飼い主が常に自問自答を繰り返すべきではないでしょうか?

そこに自ずと正しい生活、正しい道が見えてくるような気が致します。

『ただ不修をおそれるべし。』

道元禅師の教えが身に、心に沁み込みます。

第38回 「義務研修会の意義」

先月末、公認訓練士の義務研修会へ行ってまいりました。年一回、毎年催される研修会で出席が義務付けられています。毎年毎年くだらない内容ですが、今年もくだらなかったです。どこかのアメリカ人が考案した新しいドッグスポーツが欧米で人気上昇中で、それを日本に取り入れていくだとかで、時折動画を交えながら講師が約三時間しゃべり続けるというものでした。しょうもない。訓練士の、訓練士による、訓練士のための研修会。

話は変わりますが、先日、はずれてしまった首輪をつけてほしいという依頼がありました。柴犬、雄、6才。奥さんは腕をひどく嚙まれ、二日前からショックで寝込んでいるとの事。私以前に二軒の訓練所(約三名の訓練士)が関わっていたみたいですが、経過が思わしくなく、首の周りを触ろうとしただけで神経質になり、訓練士自身も触れなくなってしまったようです。約10分で首輪を付け終わり、ご主人さんは勿論奥さんも家から出てこられてたいそう喜ばれておりました。

私は常日頃から、噛み癖やトイレのしつけ、分離不安といった初歩的でかつ深刻な問題について訓練士が意見を交換し合い、議論をする場が必要なんじゃないかと考えています。

訓練士の、訓練士による、一般愛犬家のための義務研修会。これ程有意義な研修会はないでしょう。年配の訓練士の方に提案した事はありますが一笑に付されました。

悲しいかな、これが現実です。

第37回 『本物との御縁』

私は八年前にある出来事で心が壊れかけていた時に仏教に御縁をいただき救われました。以来、仏教専門書を読んだり、高僧の教えを吸収したりと、自分なりに勉強し、実践し、日々の生活に応用するようになりました。それは今も継続中で、これからも死ぬまで続けると確信しています。

数ある名僧・高僧の中でも特に感銘を受けたのが道元禅師です。師の教えは非常に素晴らしい。出家者のみならず、我々世俗に生きる者達にとっても必要で大切な教えを説いておられます。師の教えを犬の訓練士という立場で応用・実践していくことで、様々なトラブルを抱えている犬や飼い主と向き合う事が容易になりました。師は今から約800年前の方ですが、本物は残ります。

先日、妻と近くのショッピングモールへ買い物へ行った折、本屋さんに立ち寄りました。ペット関連の棚を物色しているとたくさんのしつけ本が・・・。普段は全く読まないのですが久し振りに手にしてパラパラめくってましたがすぐに棚に戻しました。書かれている内容が薄過ぎる。「しつけ本の通りにやってもうまくいかない。」云々の言葉を多くの飼い主さんからよく聞かされますが、改めて『そりゃそうなるわなぁ。』と思いました。

本物との出会いが難しい現代社会に生きる我々が本物に出会うには、これまでの常識や観念をゼロにして、名僧・高僧の教えに触れてみて下さい。実践する努力を起こしてみて下さい。

間違いなく犬との関係が変わります。内容のうすいしつけ本を読むよりも、自己研鑽に励む方が犬の問題行動を解決する糸口を見つける事が出来るようになります。

なんだか説教じみた内容になってしまいました。仏教に御縁をいただいたのがちょうど今の時期だったのでついついペンを走らせてしまったのかもしれません。

もうすぐ夏も終わりますが、まだまだ残暑は厳しいかと思います。くれぐれも熱中症にはご用心を。

第36回 『散歩の時間』

「散歩は何分ぐらい行けばいいですか?」という質問をよく受けます。個体差もあり、絶対的な時間がないので返答に困りますが、散歩が足りてるかどうかのバロメーターを提示することは出来ます。これまでの経験から以下の七点が見られる場合は、散歩が足りてないのでは?と見直す必要があるかと思います。

一、散歩の時間が近付いたり、散歩の準備を始めると異常に興奮する。

二、チアノーゼになるぐらいリードを引っ張る。

三、散歩中、物音等にビクビクして事あるごとに立ち止まったり、座り込んだりする。

四、家具や家の柱や小屋等への破壊行為。

五、エサやおもちゃ等への執着心。

六、散歩から帰ってきても落ち着きがない。

七、分離不安の症状が見られる。

等々、他にも色々ありますが、代表的なものは以上の七点かと思います。

散歩は犬にとって最も大切なものです。努力をしてでも散歩の時間を作りましょう。その努力は、犬の笑顔という形でかえってきますよ。