第12回 「自己内省」

わたしが今関わらせていただいているお客様で、せっかちマダムがおられます。非常にせっかちなご婦人です。この方が困っておられる愛犬の問題行動は散歩中の自己主張が激しいというものです。飼い主さんが行きたいと思っている公園へ行こうとすると座り込んで是が非でも動かない、小さい子供を見ただけで立ち止まってテコでも動かない、強引に引っ張って連れて行こうものなら首輪を引っこ抜く・・・等々。

お会いした当初はこちらが質問するスキも与えない程喋る喋る。「よくまぁ、こんなに口が動くもんだ。」と思いながら実はその時点で原因は突き止めていました。飼い主さんが一通り喋り終わり一息ついたところで、犬が自己主張する原因とメカニズムを説明しいざ実践。案の定わたしがリードを持つと素直に歩く歩く。飼い主さんは目をパチクリさせながらも首をひねりっぱなし。カンのいい方でしたらここまで読んでいただければおわかりかと思いますが、この犬の問題行動の原因は飼い主さんの「せっかち」にあります。

せっかちな人からは弱いマイナスエネルギーが出ています。犬は強いエネルギーに従う動物です。どの問題行動にも言える事ですが、この手の問題を改善するには飼い主さんの必死の努力が欠かせません。自己の性格を見つめ直す必要上、これまでの人生観を覆す程の精進をしていかなければなりません。とてつもなく高いハードルの「問題行動」です。犬はちっとも悪くないんです。

せっかちだけでなく、イライラ・不安・愚痴等いずれもエネルギーが弱くなります。そして犬はすぐにそのエネルギーを見抜きます。犬の行動に何かおかしい点が現れた時はまずは自身のエネルギーをチェックすべきです。謙虚に、素直にチェックすべきです。わたしも事あるごとに内省しております。

第11回 「噛み癖」

私の元には毎度毎度犬の問題行動に関する事で様々な悩みが持ち込まれます。とても簡単に解決する内容から少々難解な内容まで多岐に渡ります。先日持ち込まれた内容は難解な類でした。詳細は省きますが所謂噛み癖というやつでして、その犬は首輪を付け替えたりリードを付けたりする事が出来ないタイプでした。その時は私がリードをつけ飼い主さんにアドバイスをして帰り、後日飼い主さんから喜びの連絡を受け一件落着しました。

この噛み癖、飼い主さんにとってはやっかいなんですがプロ(訓練士・トリマー・獣医)にとってもやっかいなんですね。私の知り合いの訓練士は「噛み癖は直らない。」と断言してる方もおられます。でも直らないわけないんですよ。何か原因があるから嚙むようになってしまったわけですから。

私はこれまで多くの噛み癖のある犬と向き合ってまいりました。原因やメカニズムは千差万別ですが共通している事が一つあります。それは「噛み癖のある犬は笑顔が少ない。」という事です。人間に対する不信感が犬から笑顔をうばってるんでしょう。そういう犬を見る度「かわいそうだな。」と感じてます。かわいそうな犬をつくらないよう飼い主は勉強しなくてはいけません。それらの問題を改善出来るよう訓練士は研究しなくてはいけません。

第10回 「残暑雑感」

9月に入り、厚さも幾分やわらぎ朝夕は過ごし易い時候となってまいりました。犬の訓練やしつけもし易くなり愛犬の健康管理に注意を向けるエネルギーも少なくてすむようになりました。

今夏の私は7月、8月を迎えるにあたり一つの目標を立てておりました。それは「蝉の声を聞いても煩わしく感じるのではなく、季節の移ろいを感じられるような精神状態を維持する。」という目標です。常に心穏やかに、前向きにという事ですね。

ありがたい事にお釈迦様の御力を感じながら目標の90%は達成出来たんじゃないかなと思っています。(100%と言い切ることが出来ないところが凡夫の悲しいところです・・・。)

職業上、暑くて気分が滅入りそうになる時であっても一癖も二癖もある犬達と向き合わなくてはいけません。質の良い訓練やしつけをしていかなくてはいけません。お蔭様で今夏はうだるような暑さの中でも集中して、犬達と向き合えることに感謝の念を抱きながら訓練やしつけに精を出す事が出来ました。

人間、幸せになるにはやはり忍耐・努力・精進ですね。

第9回 「道心」

ワンポイントレッスンで仔犬のしつけ・飼育の指導等をさせていただく機会が多々あります。それについて日々感じていることがいくつかありますが、ここでは二点ばかりを挙げたいと思います。

まず一つめは「しつけ」ばかりにとらわれ頭でっかちになってしまって、犬の行動心理や習性に反した接し方をしてしまっている飼い主さんが多いこと。仔犬にすわれや待ては必要ありません。全く必要ありません。そんなものは何才からでも教えることが可能です。仔犬にはその時期にしか出来ないことを教えるべきです。その要点は三つです。

1 しっかりエサを食べさせる。

2 しっかり遊ぶ・しっかり運動をかける。

3 仔犬の体、仔犬の周りの環境を常に清潔にする。

以上の三点を厳守すれば大らかで精神状態が完璧に落ち着いた仔犬になります。

そして二つ目。あまりにも無知で無責任なペットショップの店員が多く、その店員の言葉を鵜呑みにしてしまっている飼い主さんが多いこと。言い方は失礼ですがペットショップの店員さんはしつけや訓練や犬の行動心理に関する知識や経験は素人と大差ありません。店員さんのアドバイス通りに飼育するとほぼ間違いなく発育不良になります。体の成長が遅れると精神の成長も遅れ、情緒不安定な仔犬になってしまいます。世間一般では伝染病の心配をする風潮が強いように思いますが、心の成長、脳の成長の方がそれの数倍否数十倍大切だと断言します。

我々訓練士はもちろん、ペットショップの方々も自覚を持つべきです。自分達の言葉が犬の運命を左右すると言っても過言ではないのです。

向上心を持ち勉強を続けていく。そして一人でも多くの飼い主さん、一頭でも多くの犬に幸せになっていただく。

道心を失わないよう、精進しかありません。

第8回 「動物に対する敬意」

私の母の自宅には4匹の猫がいます。私は犬だけでなくこの4匹の猫からも日々癒されており、また学ばされております。「動物とのコミュニケーション術」は猫から学んだと言っても過言ではありません。

動物は我々人間と違い、言葉によるコミュニケーションは出来ません。エネルギーによってお互いの意思疎通を計っています。「この子はよく私の言葉を理解するのよ。」と仰る飼い主さんがいますが、厳密に言うと言葉ではなく言葉の背後にあるエネルギーを理解しているのです。

私の母は社交的な性格ゆえ来客が多いのですが、猫の反応を見れば相手がどういう人かだいたいわかります。落ち着きがなく騒々しい人か、穏やかで落ち着きのある人か。騒々しい人は動物に嫌われます。何故でしょう。それは野生の動物の世界では騒々しいエネルギーだと生き残れないからです。もしくは自分の群れに騒々しいエネルギーの個体が存在するとその群れは存続が困難になるからです。

野生の世界では騒々しいエネルギーを発しているのは子供だけです。騒々しい大人はいません。地球上に生かされている動物で騒々しい大人は人間だけです。その騒々しい大人達がこの地球、この世界の混乱を招いているんじゃないかと私はいつも考えています。ペットとして飼われている犬や猫達がその事を我々に示唆してくれている。私にはそう思えてなりません。

第7回 「シロ」

愛犬の散歩コースの道中に「シロ」と私が勝手に命名した野良猫がいます。美しい真っ白な被毛と何とも愛くるしい声ときまぐれで人懐こい「シロ」に会うのを楽しみの一つとしていたのですが、ここ数か月姿を見かけなかったのです。「おかしいなぁ、最近見ないなぁ、国道がすぐそばを走ってるからひかれて死んだんかなぁ。」と心配していたところ、先日ひょいと姿を見せてくれました。「シロ」の姿を見た途端、「シロ!!」と自然と声が出る程私の心は跳ね上がりました。

痩せてもなく元気そうで、久しぶりに愛くるしい声と優雅な被毛に魅了され大いに癒されました。その時の私の心は「一切衆生悉有仏性」という言葉で満ち溢れておりました。生きとし生ける者全てに仏性が宿る。この言葉を頭の中で反芻する度、私はいつも心が軽やかになります。

自分に与えられた環境に満足して、日々の退屈な仕事を大切にしていきましょう。「道は拙をもって成る。」の精神で一瞬一瞬を大切にしていきましょう。野良猫に、名もない草花に美を見出していきましょう。それを根気よく続けることで、少しずつ世界が平和になっていくと思います。

「シロ」ちゃん、お願いだから長生きしてね。

第6回 読書の功徳

私は読書が趣味で、時間があればとにかく何かしらの本を読んでます。何かしらと言いましてもジャンルの幅は限られています。犬の行動心理関連の本、人生の指南書関連の本、健康管理に関する本、の三つです。ジャンルは限られてるので必然的に同じ本を繰り返し読むことになります。数年前まではありとあらゆる著者の本を読み漁るという感じでしたが、最近になり自分が読み込むべき本が定まり、ひたすら読み返すという読書スタイルになっております。「一偈一句といえどもそれを信じ、理解し、実践する者は真実の仏法者である。」というお釈迦様のお言葉にもあるように、自分に合う言葉や考え方をひたすら追究していく方が大事だと思うようになりました。

犬に関する本では「犬の行動と心理」という本をまた読み始めました。平岩米吉さんという方が書かれたこの本は大変古い物ですが、今もってまばゆいばかりの光彩を放つ素晴らしい本だと思います。一回目読んだ時よりも二回目、二回目の時よりも三回目と、理解の仕方や幅が広がっていくのが同じ本を繰り返し読む事の利点だと思います。

今回の読み返しによりまた新たな気持ちで犬と向き合っていける幸せを嚙み締めつつ、日々のなにげない仕事を大切にしてゆきたいと思っております。

訓練士たるもの、人間たるもの、一生勉強です。

第5回 混合ワクチンについて

先日、懇意にさせていただいている獣医さんと話をする機会があり、非常に有益な情報をきかせていただきました。混合ワクチンについてですが、WSAVAワクチンガイドライングループの公式アナウンスによると、成犬の場合一度ワクチン接種をすると3年は打たなくていい事になっているとの事。もう5年以上も前からそういう流れになってるにもかかわらずいまだに浸透していないのは残念な事、とその獣医さんは洩らしてました。

どんな世界にも言えることだと思いますが、国民にとって本当に必要な情報はなかなか公にされないんですね。なにかしら大きな力がはたらいているんでしょう。自分の愛犬の健康にとっても必要以上のワクチンは毒だと思います。世間に溢れている情報はウソだらけです。いわゆる常識といわれる情報の全てに対し、疑いの目と耳を持ち、真実の目と耳を養う必要があると思います。

このコラムを読んでいただいてる皆さん、是非一度「犬 ワクチン ガイドライン」で検索をかけてみて下さい。何かしら考えさせられるものが見つかると思います。

第4回 二枚のポストカード

先日、部屋の掃除をしている時に大変なつかしく、そしてとても大切にしていた物が出てきました。とある写真家の方が撮影された犬の写真がプリントされた二枚のポストカードです。自分がまだ20代で訓練所で修行中の頃、挫けそうな心に何回も何回も火をつけてくれたポストカード。プリントされている犬は保健所に収容されている、死を待つのみの犬です。身勝手で無責任で低レベルな人間たちによって捨てられたかわいそうな犬たち。「一頭でもそういう犬を救いたい。」という思いが訓練士としての最大のモチベーションです。20代の頃から抱きはじめたその思いは今も変わらないと思っていましたが、数年振りに見る写真の犬の瞳が、その思いが少しうすれてしまっている、という事に気付かせてくれました。

大切にしていた物が見つかった喜びと、20代の頃の情熱を少し失っていた自分のふがいなさとが入り混じった複雑な感情を抱きつつ、「初心貫徹・日々精進」の大切さと難しさを改めて痛感している今日この頃です。

春生じ夏長じ秋実り冬蔵す

 

今年もきれいに桜が咲き、多くの人達の心を惹きつけ、楽しませ、幸せな気持ちにさせた事でしょう。私ももちろんその一人で、愛用のカメラを首にぶらさげ愛犬をお伴にブラブラしながらパチリパチリとやりながら初春の空気、初春の喜びを満喫させていただきました。

毎年この時期になると「春生じ夏長じ秋実り冬蔵す」という言葉を思います。私はこの言葉が大好きです。秋や冬といった、ほとんどの人が見向きもしないような時でもかまうことなく、土中の養分を少しずつ少しずつ吸収して花開くその時に向かって一歩一歩着実に歩を進める、その事に強く心を惹かれます。また学ばされます。そしてこの言葉はそのまんま犬の訓練やしつけに当てはまるのです。今回はその事について少し私見を綴っていこうかと思います。

問題行動の問い合わせで多いのが、無駄吠え・噛み癖・トイレのしつけです。ここ数年は小型犬がブームなので特にこの傾向は顕著です。そしてこれらの問題行動に頭を悩ます飼い主さんの多くは、その問題行動のみに焦点を絞ってあれやこれやと試行錯誤を繰り返しながらしつけをしています。また世に出回っているしつけ本の情報等も「吠え出したらこう叱る」「粗相をしたらこうする・・・」的ないわゆる対処療法に終始しているフシが見受けられます。運が良ければそれで改善し、愛犬とのハッピーライフを送れる人達もいるでしょうが、なかなかそれだけでうまくいかないという方が大半だと思います。ロボットが相手だといわゆるマニュアルが通用するでしょうが犬だとそうはいきません。犬には感情があります。犬種の特徴があります。性格の相違をはじめとした個体差もありますし、犬には犬の行動心理があります。それらを総合的に考察し、対処していくのですが、私が強調したい事は「木を見て森を見ずにならないように。」という事です。一つ一つの問題行動にとらわれてその事のみに対処しないようにという事です。

例えばトイレのしつけ。トイレのしつけがうまく出来ない犬の多くは精神状態が不安定なんですが、その原因って千差万別なんですね。前稿でも述べた運動不足・適切でない叱られ方をされた事がある・飼い主さん宅に騒々しい子供がいる。(特に小学生の男の子・・・笑)・ペットシートが汚れている・等々数え上げるとキリがないほど。運動不足が原因であれば散歩に連れて行く時間を増やす努力をすることから取り組まなくてはいけませんし、騒々しい子供がいればその子供に教え諭す取り組みも必要になってきます。また、すぐにカッとなったりしょっちゅうイライラしてしまう人であれば、その己の悪癖に謙虚に向き合うという、何やら人生相談的な方面にも目を向けざるをえなくなる事もあります。要は色々な角度から問題行動に取り組む姿勢、一見すると問題行動とは全く関係のないようなしつけをしていく姿勢が必要になってくるという事です。

「成功する為の近道なんてものはない。」これはどのような世界にも共通して言える言葉だと思います。

犬のしつけに近道はありません。「簡単に犬をしつける方法!!」等巷にあふれてるこれらの甘言に惑わされることなく、己を謙虚に省みて愛犬と向き合い「春生じ夏長じ秋実り冬蔵す」の精神で愛犬のしつけに取り組んでいただきたいと思います。そして一人でも多くの飼い主さんに「愛犬との絆」という花を咲かせていただきたいと思っております。