第58回 『深める』

昨年11月から推定2才の保護犬のしつけをさせていただいておりますが、ここ最近の成長ぶりが素晴らしい。犬の成長はもちろんですがそれ以上に飼い主さんのレベルアップが脱帽モンです。社会化が全くされていない保護犬の為、多くの問題を抱えておりしつけが大変です。腕を嚙む、足を嚙む、飛びついて嚙む、引っ張る、すぐに興奮する・・・等々。初めの頃は毎回毎回アザだらけ生傷だらけの腕や足を飼い主さんから披露されてました。「また嚙まれました・・・。」「また飛びつかれて大変でした・・・。」「引っ張られてこけそうになりました・・・。」

その犬と飼い主さんの相性から『ハードルが高いな・・・。』という第一印象でしたが、問題行動のメカニズムと解決の方程式を説明し、目の前で実践すると飼い主さんのしつけに対するモチベーションに火がついたのかとても一生懸命に問題行動の改善に取り組まれるようになりました。私のアドバイスを一語一句をちゃんと聞いてくれて、少しずつ少しずつレベルアップしていくのが見て取れて感動的です。大寒波の時でもしつけに取り組まれる姿を見た時は胸が熱くなりました。

行く度に飼い主さんから感謝の言葉をいただきますが、いやいや私の方こそ感謝です。一風変わった、あまり一般的でない私のしつけ論をよく理解し、実践してくれて犬が良い方向に向かって行く。これこそ訓練士として最高の喜び。これに勝る喜びなんてないです。

問題行動の改善には、訓練士と飼い主さんとの間に不抜の信頼関係を作り、二人三脚で取り組むこと。

その犬と飼い主さんのおかげで私は自分の信念を深める事が出来ました。

この深めた信念を多くの犬と飼い主さんに還元していきたい。

第57回 『力量』

2021年がスタートして早や一か月が経とうとしています。連日ニュースの最初の話題はやはりコロナ・・・。コロナに感染して苦しんでいる人、失業した人、収入が激減した人等のニュースが日々流れ、いつになったら落ち着くのかと暗澹たる気持ちになります。そんな中、私はありがたい事に毎日忙しく働かせていただいております。『疲れたぁ、疲れたぁ』ではなく『有難い、有難い』を意識しながら動いてます。

先日、生後二か月の甲斐犬のワンポイントレッスンという、とても貴重な経験をさせていただきました。甲斐犬というだけでも珍しいのに仔犬に触れあえるなんて・・・。日本犬が大好きな私は前日からワクワクしておりました。見させていただいた仔は非常に憶病で、動物らしさを濃く残しているとても魅力的な仔犬でした。私を見ると怯えてテーブルの下に隠れてうなりながら吠える程繊細です。抱っこした瞬間にはパニックを起こしてギャーギャー鳴きわめきながら暴れ嚙んできましたが、五分程マッサージをすると少し落ち着いてくれました。わめく程怯えているのにオシッコをちびらなかったので支配的な犬になるだろうなと思いました。社会化を徹底しないと将来扱いにくい犬になりそうです。

動物らしさを濃く残している犬を飼うには人間の力量が試されます。それが私が日本犬に惹かれる所以です。この先色々大変な事がありそうですが、飼い主さんには是非頑張って力量を身に付けていただきたいなと切に願います。

とにもかくにも

2021年スタートです。

今年も頑張ってまいります。

第56回 『師走ですね』

今年も残すところわずかとなりました。早いですね。『密』が今年の漢字に選ばれたみたいですがやはりコロナ関連でしたね。コロナで始まりコロナで終わったような一年でしたからね。『鬼』や『滅』になるよりかはマシかな・・・。幸い私はコロナにかかることなく、体調を崩さずやってこれました。いやぁ、有難い有難い。

今年も色々な犬に出会えたなぁ。色々な飼い主さんとの出会いに恵まれたなぁ。相変わらず飼い主さんへの指導法には頭を悩まされますが、幅が広がったと実感出来る一年になりました。ホント、努力・研究に終わりはありませんわ。

来年も全集中、令和三年の呼吸、努力精進の型でやってまいります。

皆様、良いお年を。

第55回 『種を見つける』

近所にチワワを二匹飼ってる方がいます。毎朝その家を通る度に犬の吠える声と飼い主さんの金切り声が聞こえてきます。

『かわいそうやな。』って思う。

犬がね。

落ち着きのない、騒々しい人間に飼われる犬は不幸だ。

犬の行動は飼い主の行動のクセや考え方のクセを反映しているに過ぎない。だから犬の行動を変えたければ飼い主が行動を変えないといけない。

行動を変える第一歩は謙虚になる事。

その人間に足りないものは何かをわからせる為に神様仏様が遣わしてくれた動物、それが犬。

『精進せぇよ、精進せぇよぉ。』

神様の声が聞こえますか。

『悟れよぉ、悟れよぉ。』

仏様のエネルギーを感じますか。

せっかちな人は呼吸を整える努力。

イライラしがちな人は草花に美を見出す努力。

他人の短所ばかり目につく人は長所を見つける努力。

他人のせいばかりする人は己を省みる努力。

「時間がない。」が口癖の人は時間を作る努力。

努力の種なんていくらでもある。

私なんて、いくらでも種を持ってますよ。そりゃもう、イヤになるぐらい。

それだけ

多くの実がなる花が咲く。

自分の種を見きわめて

あせらず、慌てず、着実に

収穫の時期を待ちましょう。

第54回 『散歩ですっ!!』

散歩は犬にとって必須です。最重要事項です。一番のコミュニケーションになります。

先日も嚙む・吠える・部屋中に粗相する問題を抱えた9才の小型犬の飼い主さんに散歩の大切さを力説しているとポカンとしたご様子・・・。

「小型犬は散歩をしなくても大丈夫と聞きましたが・・・。」

「誰から聞いたんですか?」

「ペットショップの店員さんから・・・。」

はぁ・・・。ここにもペットショップ店員の間違ったアドバイスによる被害者が・・・。

散歩に体の大きさは関係ありません。体が散歩を求めているのではなく、犬としてのDNAが求めているんです。

先述のその飼い主さん、「掃除機をかけるとこの子は興奮して掃除機に噛みついてきて、掃除が終わる頃にはハアハアと肩で息をする程疲れるからそれで運動が足りてると思ってました。」と云う始末。

絶句・・・。

二の句が継げない・・・。

『そりゃ、この人が飼えば問題行動の総合商社のような犬が出来上がるわな・・・。』って思っちゃったし、言っちゃった。

散歩!! 散歩!! 散歩です!!

草木の匂いを嗅ぐ犬の姿に癒されましょう。

歩く姿、走っている時の表情に喜びを見出しましょう。

散歩を通して四季の移ろいを感じましょう。

問題行動の改善云々はそれからです!!

第53回 『愛犬近況』

九月に入り秋の空気になりましたね。朝晩は半袖だと少し寒いぐらいです。早朝の愛犬マックスとの散歩が楽しくなり自然と散歩の時間が長くなります。

そのマックスですが先月は大変でした。暑さと加齢の影響で三回も腸炎になってしまい、上からも下からも出るわ出るわで夜中に何度も起こされ寝不足の日が何日もありました。年に一、二回腸炎になる事はありますが同じ月に三回は初でした。

あまりに衰弱しきった状態になった時は死を覚悟しましたが、持ち前の生命力と数日の断食により無事復活し、今ではイキイキした表情で散歩が出来るまで回復しました。元気な姿のマックスを見てるととても幸せな気持ちになり、改めて犬の存在の大きさを感じます。飼い主さんの気持ちに寄り添う事が出来るのもマックスのおかげだと思います。

マックスは12月で14才。

あとどれぐらいの時間を一緒に過ごせるか。

一日一日大切に。

一回一回の散歩を大切に。

気持ち良さげに寝息を立てている愛犬の横でキーボードを叩いております。

第52回 『りっしんべんの方』

しつけが出来ない飼い主さんが実に多い。

『犬に我慢をさせるのがかわいそう。』

『ルールを作ると犬に嫌われるんじゃないか。』

『自由にさせてあげないとストレスがたまるんじゃないか。』

という考えに捉われているとしつけは成功しません。絶対に。

しつけを成功させるポイントはたのしむ事。しかし『楽しむ』ではなく『愉しむ』です。『enjoy』ではなく『pleasure』です。

友人と飲みに行く、恋人とドライブする、美味しい物を食べる、これらは『楽しむ』ですね。『enjoy』ですね。

困難な仕事をやり遂げる、わからなった数学の問題が勉強して理解出来るようになる、オリンピック選手が厳しい練習を己に課し自己ベストを更新する、これらは『愉しむ』ですね。『pleasure』ですね。しつけはこっちです。

家を出る時入る時は人間が先、リードを引っ張らさず人間に合わして歩く、食事の催促はさせない、等々といったルールを作り徹底して教え込む。その過程で起こる自身の心情の変化や犬の態度の変化を愉しめるようになればしめたもの。しつけは成功したも同然です。

『愉しむこと』

『pleasureを感じること』

これがしつけの要諦です。

第51回 『良書推薦』

連日、雨。

42年間生きてきて記憶にない程降り続いております。

小雨程度なら仕事をしますが基本的に雨天は休みです。気分が滅入っているかというとさにあらず、気持ちを切り替えて読書に時間を割いてます。晴耕雨読とは誠に宜しい言葉です。

犬関連で最近読んでいる(と言うか読み返している)本はフロイントの『オオカミと生きる』。初めて読んだのが20才頃ですのでずいぶん古い本ですが、良い本は何回読み返しても良いもんです。私のしつけ法や問題行動の改善法が広がったのもこの本のおかげです。

中途半端なしつけ本には書かれていない大切な事がたくさん書かれています。

しつけにおいては、自分の意志を通す力がいかに必要であるかという事と、実践する事が人の心を動かす力になるという事を再認識させられます。絶版本なので新品では買えませんが、この梅雨の時期(それとコロナ関連での自粛傾向の時期)を機に是非。

第50回 『手のかかる犬ほど・・・』

15年振りに一目惚れしました。

目はキリッとして鋭く、鼻は筋が通って高く、毛はオオカミのように美しく、耳は真っすぐ立ち、尾は巻尾で、年齢は2才・・・あ、はい犬です。

先月から関わらせていただいている犬で、初めて飼い主さん宅に到着した時に窓辺からジッと私を見据える姿にやられました。思わず「うわぁぁぁ」っと声がもれ、トキメキ100%になりました。(なんのこっちゃ)

私は動物らしい犬が大好きで、誰にでもすぐなつく愛玩犬よりも気難しく一筋縄ではいかない犬に魅力を感じてしまいます。

その犬の問題は極度の怖がりで、散歩に連れて行けない事。走っている車やバイクを見たり、遠くで鳴っているエンジン音を聞いただけでパニックを起こしてあばれます。飼い主さんはお手上げで、その犬は約2年間散歩に連れて行ってもらえず家と庭だけの引きこもり状態でした。原因は仔犬の頃からの経験不足と飼い主さんの間違った接し方。

パニックの度合いがかなりひどいので改善していくのはかなりエネルギーを要するとは思いましたが、鼻の使い方を見た時に『大丈夫、治る。』と何となく感じました。この『何となく』がバカに出来ないんですよ。

パニックを起こす度にマッサージをしたり、信頼関係を築く為にブラッシングに時間をかけたり、車がほとんど走らない時間を選んで朝3時半から散歩したりと、色々な努力を重ねた甲斐あって1クール終了しない内に喜んで散歩するようになりました。尻尾がピンと立ち喜々としたエネルギーで匂いを嗅ぎまわる姿を見ると幸せな気持ちでいっぱいになります。走っているトラックを見たり、交通量の多い道を歩いたり、杖をついて歩いている人を見るとまだパニックを起こしますが、まぁ仕方ない。2年も引きこもりだったんですから。毅然とした態度で待つのみ。

競技会で好成績を目指すのも良いですが、精神を病んだ、扱いが難しい犬を幸せにしていく努力は格別です。

そういう努力が私は楽しくて楽しくて仕方ないんです。

第49回 『曇りガラス』

先日、チュクチ族と犬との共存生活を紹介しているテレビ番組を拝見しました。私は原住民族の方達の動物の扱いにとても興味があります。我々文明生活者より動物の扱いがはるかに上手く、動物の事を理解されており、学ばなければならない要素がたくさんあるからです。しつけの本なんて足元にも及ばないぐらい優れた教材だと思います。

小学校に上がるか上がらないかぐらいの小さな男の子が大型犬同士のケンカを一瞬で止めさせるシーンに度肝を抜かれました。しつけの真髄がそのワンシーンに集約されていました。技術にこだわる人達からは「野蛮だ」とか「虐待だ」といった声が上がりそうですが、もう少し冷静になって、そして近視眼的な考え方を改めてほしいなと思いますね。

やり方だけを見て虐待と捉えるのは間違ってると思います。虐待かどうかはその後の犬の態度・表情・エネルギーから判断するべきです。これは現在の学校の教育や家庭のしつけにもあてはまることだと思います。

文明の利器や間違った食生活に囲まれ、真理から遠ざかり、本質的なものを見失っている我々文明生活者は原住民族の方達から学ばなければならない要素がたくさんあると思うんです。

我々は曇ったガラスを通して世界を見ている。

犬はその事に気付かせてくれる動物だと思います。