第15回 「忍耐を教える」

愛犬の要求吠えがひどくて悩んでおられる飼い主さんがおられます。散歩の時間がくると吠える、エサの時間がくると吠える、典型的な要求吠えですね。

犬にしつけをする事が出来ない人が増えているように思います。(私の妻もその一人です・・・。)猫がペットの飼育数で犬を上回ったそうですが充分納得出来るデータですね。

しつけとは忍耐を教える事だと思います。忍耐を教えるには、まずは己が忍耐をする大切さや素晴らしさを理解しなくてはなりません。

一日三食を二食にする、お湯を使わず水で手を洗う、顔を洗う、常に靴を揃える、常に部屋を清潔にする等、日常で忍耐をする練習はいくらでもあります。その練習を通して忍耐をする大切さ、素晴らしさを実感出来るようになります。そうなると犬のしつけは容易になります。

毎日毎日頑張って忍耐の練習をしましょう。

第14回 「引っ張る子」

古くからのお客さんの紹介で関わらせていただく事になった1才数か月の柴犬の男の子。柴犬のわりにとても甘えん坊でなでられるのが大好き。性格も穏やかで目鼻立ちがくっきりしたとても男前な従順BOY。初めてその子を見た時には飼い主さんの訴えとのギャップに戸惑いました。「散歩の時に引っ張り回されて困っている。」この子が?・・・。引っ張り回す?・・・。ほんとピンときませんでしたがリードをつけ外へ出た途端、合点がいきました。「なるほど、こりゃ大変だ。」

引っ張り癖は大別して二種類あります。一つは最もポピュラーな、犬に主導権を握られて引っ張り回されるタイプ。もう一つは幼い頃からの社会化不足で引っ張るタイプ。社会化不足で引っ張るという事にすぐ納得できる方は犬(動物)の心理学に長けている方と言えます。このテの引っ張り癖、実は非常にやっかいなんです。ただ単に引っ張ったら叱る、訓練用の首輪をつけて横へつく事を教える、というわけにはいきません。脳細胞の成長がストップしてしまっているので、その成長を促す事に時間とエネルギーをかける必要があります。この従順BOYは典型的な社会化不足による引っ張り癖でした。

脳細胞の成長の遅れを取り戻すのに2か月近くかかりましたが努力の甲斐があり今では落ち着き、外へ出ても人間の方に意識を向けるようになりました。これで本格的に引っ張り癖の矯正、横へつけて歩く訓練が出来るようになります。

引っ張るから叱る、という通り一辺倒のやり方ではうまくいかない犬もいるという事を多くの方に知っていただきたいと思っております。引っ張られて困っている飼い主さん、愛犬がどっちのタイプかを見極める事からはじめましょう。

第13回「一燈照隅」

連日

、心配なニュースや気分が悪くなるようなニュースが後を絶ちませんが、先日NHKで、高知県のとあるガソリンスタンドの所長さんが衰弱して路頭に迷っている野生のタヌキを保護して大切に飼育され、そのタヌキが多くの人達から可愛がられ今ではすっかりそのスタンドのマスコット的存在になっているという、何とも微笑ましいほのぼのしたニュースを拝見して心が温かくなりました。

スタンドの所長さんのタヌキに対する接し方とそれによるタヌキの表情やエネルギーの状態を観察していると訓練士としてとても感銘を受けました。学ぶべきところが多々ありました。噛み癖・攻撃性のある犬に対するしつけ方、接し方の幅が広がり今後の訓練士人生に生かさせていただこうと思いました。

「一燈照隅」という言葉があります。一人一人の正しい行動、善い行動が身近な人や遠くの人にも良い波紋をもたらすんですね。

自分も良い波紋を広げられるような人間になりたい、訓練士になりたいと切に思う今日この頃です。

第12回 「自己内省」

わたしが今関わらせていただいているお客様で、せっかちマダムがおられます。非常にせっかちなご婦人です。この方が困っておられる愛犬の問題行動は散歩中の自己主張が激しいというものです。飼い主さんが行きたいと思っている公園へ行こうとすると座り込んで是が非でも動かない、小さい子供を見ただけで立ち止まってテコでも動かない、強引に引っ張って連れて行こうものなら首輪を引っこ抜く・・・等々。

お会いした当初はこちらが質問するスキも与えない程喋る喋る。「よくまぁ、こんなに口が動くもんだ。」と思いながら実はその時点で原因は突き止めていました。飼い主さんが一通り喋り終わり一息ついたところで、犬が自己主張する原因とメカニズムを説明しいざ実践。案の定わたしがリードを持つと素直に歩く歩く。飼い主さんは目をパチクリさせながらも首をひねりっぱなし。カンのいい方でしたらここまで読んでいただければおわかりかと思いますが、この犬の問題行動の原因は飼い主さんの「せっかち」にあります。

せっかちな人からは弱いマイナスエネルギーが出ています。犬は強いエネルギーに従う動物です。どの問題行動にも言える事ですが、この手の問題を改善するには飼い主さんの必死の努力が欠かせません。自己の性格を見つめ直す必要上、これまでの人生観を覆す程の精進をしていかなければなりません。とてつもなく高いハードルの「問題行動」です。犬はちっとも悪くないんです。

せっかちだけでなく、イライラ・不安・愚痴等いずれもエネルギーが弱くなります。そして犬はすぐにそのエネルギーを見抜きます。犬の行動に何かおかしい点が現れた時はまずは自身のエネルギーをチェックすべきです。謙虚に、素直にチェックすべきです。わたしも事あるごとに内省しております。

第11回 「噛み癖」

私の元には毎度毎度犬の問題行動に関する事で様々な悩みが持ち込まれます。とても簡単に解決する内容から少々難解な内容まで多岐に渡ります。先日持ち込まれた内容は難解な類でした。詳細は省きますが所謂噛み癖というやつでして、その犬は首輪を付け替えたりリードを付けたりする事が出来ないタイプでした。その時は私がリードをつけ飼い主さんにアドバイスをして帰り、後日飼い主さんから喜びの連絡を受け一件落着しました。

この噛み癖、飼い主さんにとってはやっかいなんですがプロ(訓練士・トリマー・獣医)にとってもやっかいなんですね。私の知り合いの訓練士は「噛み癖は直らない。」と断言してる方もおられます。でも直らないわけないんですよ。何か原因があるから嚙むようになってしまったわけですから。

私はこれまで多くの噛み癖のある犬と向き合ってまいりました。原因やメカニズムは千差万別ですが共通している事が一つあります。それは「噛み癖のある犬は笑顔が少ない。」という事です。人間に対する不信感が犬から笑顔をうばってるんでしょう。そういう犬を見る度「かわいそうだな。」と感じてます。かわいそうな犬をつくらないよう飼い主は勉強しなくてはいけません。それらの問題を改善出来るよう訓練士は研究しなくてはいけません。

第10回 「残暑雑感」

9月に入り、厚さも幾分やわらぎ朝夕は過ごし易い時候となってまいりました。犬の訓練やしつけもし易くなり愛犬の健康管理に注意を向けるエネルギーも少なくてすむようになりました。

今夏の私は7月、8月を迎えるにあたり一つの目標を立てておりました。それは「蝉の声を聞いても煩わしく感じるのではなく、季節の移ろいを感じられるような精神状態を維持する。」という目標です。常に心穏やかに、前向きにという事ですね。

ありがたい事にお釈迦様の御力を感じながら目標の90%は達成出来たんじゃないかなと思っています。(100%と言い切ることが出来ないところが凡夫の悲しいところです・・・。)

職業上、暑くて気分が滅入りそうになる時であっても一癖も二癖もある犬達と向き合わなくてはいけません。質の良い訓練やしつけをしていかなくてはいけません。お蔭様で今夏はうだるような暑さの中でも集中して、犬達と向き合えることに感謝の念を抱きながら訓練やしつけに精を出す事が出来ました。

人間、幸せになるにはやはり忍耐・努力・精進ですね。

第9回 「道心」

ワンポイントレッスンで仔犬のしつけ・飼育の指導等をさせていただく機会が多々あります。それについて日々感じていることがいくつかありますが、ここでは二点ばかりを挙げたいと思います。

まず一つめは「しつけ」ばかりにとらわれ頭でっかちになってしまって、犬の行動心理や習性に反した接し方をしてしまっている飼い主さんが多いこと。仔犬にすわれや待ては必要ありません。全く必要ありません。そんなものは何才からでも教えることが可能です。仔犬にはその時期にしか出来ないことを教えるべきです。その要点は三つです。

1 しっかりエサを食べさせる。

2 しっかり遊ぶ・しっかり運動をかける。

3 仔犬の体、仔犬の周りの環境を常に清潔にする。

以上の三点を厳守すれば大らかで精神状態が完璧に落ち着いた仔犬になります。

そして二つ目。あまりにも無知で無責任なペットショップの店員が多く、その店員の言葉を鵜呑みにしてしまっている飼い主さんが多いこと。言い方は失礼ですがペットショップの店員さんはしつけや訓練や犬の行動心理に関する知識や経験は素人と大差ありません。店員さんのアドバイス通りに飼育するとほぼ間違いなく発育不良になります。体の成長が遅れると精神の成長も遅れ、情緒不安定な仔犬になってしまいます。世間一般では伝染病の心配をする風潮が強いように思いますが、心の成長、脳の成長の方がそれの数倍否数十倍大切だと断言します。

我々訓練士はもちろん、ペットショップの方々も自覚を持つべきです。自分達の言葉が犬の運命を左右すると言っても過言ではないのです。

向上心を持ち勉強を続けていく。そして一人でも多くの飼い主さん、一頭でも多くの犬に幸せになっていただく。

道心を失わないよう、精進しかありません。

第8回 「動物に対する敬意」

私の母の自宅には4匹の猫がいます。私は犬だけでなくこの4匹の猫からも日々癒されており、また学ばされております。「動物とのコミュニケーション術」は猫から学んだと言っても過言ではありません。

動物は我々人間と違い、言葉によるコミュニケーションは出来ません。エネルギーによってお互いの意思疎通を計っています。「この子はよく私の言葉を理解するのよ。」と仰る飼い主さんがいますが、厳密に言うと言葉ではなく言葉の背後にあるエネルギーを理解しているのです。

私の母は社交的な性格ゆえ来客が多いのですが、猫の反応を見れば相手がどういう人かだいたいわかります。落ち着きがなく騒々しい人か、穏やかで落ち着きのある人か。騒々しい人は動物に嫌われます。何故でしょう。それは野生の動物の世界では騒々しいエネルギーだと生き残れないからです。もしくは自分の群れに騒々しいエネルギーの個体が存在するとその群れは存続が困難になるからです。

野生の世界では騒々しいエネルギーを発しているのは子供だけです。騒々しい大人はいません。地球上に生かされている動物で騒々しい大人は人間だけです。その騒々しい大人達がこの地球、この世界の混乱を招いているんじゃないかと私はいつも考えています。ペットとして飼われている犬や猫達がその事を我々に示唆してくれている。私にはそう思えてなりません。

第7回 「シロ」

愛犬の散歩コースの道中に「シロ」と私が勝手に命名した野良猫がいます。美しい真っ白な被毛と何とも愛くるしい声ときまぐれで人懐こい「シロ」に会うのを楽しみの一つとしていたのですが、ここ数か月姿を見かけなかったのです。「おかしいなぁ、最近見ないなぁ、国道がすぐそばを走ってるからひかれて死んだんかなぁ。」と心配していたところ、先日ひょいと姿を見せてくれました。「シロ」の姿を見た途端、「シロ!!」と自然と声が出る程私の心は跳ね上がりました。

痩せてもなく元気そうで、久しぶりに愛くるしい声と優雅な被毛に魅了され大いに癒されました。その時の私の心は「一切衆生悉有仏性」という言葉で満ち溢れておりました。生きとし生ける者全てに仏性が宿る。この言葉を頭の中で反芻する度、私はいつも心が軽やかになります。

自分に与えられた環境に満足して、日々の退屈な仕事を大切にしていきましょう。「道は拙をもって成る。」の精神で一瞬一瞬を大切にしていきましょう。野良猫に、名もない草花に美を見出していきましょう。それを根気よく続けることで、少しずつ世界が平和になっていくと思います。

「シロ」ちゃん、お願いだから長生きしてね。

第6回 読書の功徳

私は読書が趣味で、時間があればとにかく何かしらの本を読んでます。何かしらと言いましてもジャンルの幅は限られています。犬の行動心理関連の本、人生の指南書関連の本、健康管理に関する本、の三つです。ジャンルは限られてるので必然的に同じ本を繰り返し読むことになります。数年前まではありとあらゆる著者の本を読み漁るという感じでしたが、最近になり自分が読み込むべき本が定まり、ひたすら読み返すという読書スタイルになっております。「一偈一句といえどもそれを信じ、理解し、実践する者は真実の仏法者である。」というお釈迦様のお言葉にもあるように、自分に合う言葉や考え方をひたすら追究していく方が大事だと思うようになりました。

犬に関する本では「犬の行動と心理」という本をまた読み始めました。平岩米吉さんという方が書かれたこの本は大変古い物ですが、今もってまばゆいばかりの光彩を放つ素晴らしい本だと思います。一回目読んだ時よりも二回目、二回目の時よりも三回目と、理解の仕方や幅が広がっていくのが同じ本を繰り返し読む事の利点だと思います。

今回の読み返しによりまた新たな気持ちで犬と向き合っていける幸せを嚙み締めつつ、日々のなにげない仕事を大切にしてゆきたいと思っております。

訓練士たるもの、人間たるもの、一生勉強です。