第67回 『順序』

第64回の記事に少しだけ触れた犬との生活が始まって一か月が過ぎました。楽しい。手間も時間もかかるけど楽しいです。外飼いの子なので、初の室内生活に緊張した様子でしたが今はすっかり我が家のライフスタイルに順応しております。

犬を迎え入れ、犬の心理状態を落ち着かせるポイントは『たっぷりの運動』『強力なリーダーシップ』『規律ある生活』の三点です。

『たっぷりの運動』とは散歩ですね。迎え入れた当初は1日6回散歩に行っておりました。その内2回は40分以上の長い散歩で残りの4回は10分から15分程度の散歩です。疲れてクタクタになる事で休息モードに入り、よく眠ります。人間同様、犬も睡眠が大事。

『強力なリーダーシップ』を発揮する人間がいると犬は安心します。細やかな愛情をかけるよりも強力なリーダーシップの方が重要です。その為の第一歩は『冷静な心』です。何をするにも冷静な心がなければうまくいきません。冷静な心を身に付けるには努力です。ひたすら努力。私は自己暗示で心を冷静に保つようにしています。犬と向き合う時は勿論ですが日常から『冷静な心・冷静な心・・・。』と反芻しています。『切に想う心深ければ方便も出で来れるようあるべし。』道元禅師の言葉です。『こうありたい。』という想いを常に心の中で唱え、頭に叩き込む。自己暗示の力は絶大です。

『規律ある生活』を送るためにはクレートが必須です。クレート管理ですね。仔犬でも保護犬でもいきなり部屋を自由に動き回らせる方がいますが、絶対やめた方がいいです。環境に慣れていない犬をフリーにすると緊張が高まり興奮状態になるからです。興奮状態が問題行動を誘発するのでクレートが絶対必須なんです。クレートに入れる事をかわいそうと考えている方、イヌ科動物の本来の生活を知って下さい。彼らは穴を掘って、もしくは四方を木や草や岩で囲まれた環境で休息に入るんですよ。

群れの移動(散歩)・狩り(エサ・水・ボール遊び等)・穴ぐらで休む(クレート管理)。これが犬の原点です。

以上の事をきっちり行う事で精神状態は完璧に落ち着きます。細やかな愛情(広義の愛情が大切なのは言うまでもない)は一番最後でいいんです。

第66回 『梅雨時雑感』

よく降りますね。今年は梅雨入りが早かったので、6月の中頃には明けるかなと思ってましたが、どっこい7月に入ってもまだ続いております。雨天によりスケジュールの変更を余儀なくされる日も多いのですが左程ストレスを感ずる事無く過ごしてます。雨の日は、いつも以上に草木や花に目を向ける事に努めてます。雨に打たれている木や草は何だか喜んでいるように見えるんです。その草木を見ているとこっちまで嬉しくなり、気持ちが軽く、明るくなります。乾かない洗濯物を見てるとイライラしますが、天気に腹を立ててもしょうがない。草木や花や、嬉しそうに鳴く蛙ちゃんたちがそれを教えてくれます。

梅雨空でも

頑張りましょ。

あ、そうそう

今月は私の長年憧れていた人とお会いします。とても有名な方なので詳細は書けませんが、本当に楽しみです。

その方との出会いにより、私の人生の目標に一歩近づけると確信しています。

やはり

継続は力です。

第65回 『名著5選』

私は読書が趣味で、時間があれば何かしらの本を読んでいます。今回は影響を受けた本を紹介したいと思います。

第5位 『あなたの犬は幸せですか』 シーザー・ミラン

世界的ドッグトレーナーの処女作。犬と接する時の心構えや、問題行動発生のメカニズムが分かり易く、説得力のある言葉で書かれてあり、素人の方が読まれてもきっと心に響くものがあると思います。

第4位 『二宮翁夜話』 編著 村松敬司

歴史上の人物で最も尊敬しているお方です。二宮尊徳に関する本は読み漁りましたが、本書が一番分かり易く二宮尊徳の思想や業績がまとめられてると思います。

『飯と汁 木綿着物は身を助く その余はわれをせむるのみなり』

まことに金言だと思います。

第3位 『永平大清規』 編著 篠原壽雄

五年前から実践している健康法をきっかけに出会えた本。

鎌倉時代の高僧、道元禅師が書かれた書。日常の礼儀作法や食べ物に対する向き合い方等、出家者のみならず我々在家で生きる者の心にも響く教えがたくさん書かれてます。編著者の篠原氏の以下に記す言葉を多くの犬の飼い主に熟読玩味していただきたい。

『親は若者の言いなり放題にふるまって、若者の欲しがる物をただちにわかち与え、その主張に与する事が若者を理解する親の態度であり、それが彼らとの心の交流と考えている。勘違いもいいかげんにしてくれ、とさけびたい。そんな態度には本当の親心も慈悲心のかけらもない。ただ単に無定見に若者に振り回されてるにすぎない。』

『親』を『飼い主』に、『若者』を『犬』に置き換えてみた時に、しつけに関してこれ程為になる名文はないと思います。

第2位 『白砂糖の害は恐ろしい』 甲田光雄

私が勝手に師と仰いでいる甲田光雄医師渾身の書。タイトルに示す通り白砂糖がいかに身体及び精神に悪影響を及ぼすかを、甲田医師の鬼気迫る想いと情熱がヒシヒシと伝わる言葉で綴られている名著です。

私が砂糖を絶つことができたのも本書のおかげです。この本が私に真の健康とはどういう状態であるかを教えてくれました。

第1位 『スッタニパータ』 『ダンマパダ』 訳 中村元

座右の書。初期の仏典。この二冊は甲乙つけがたいので同率1位。

仏教と聞くと『かたっくるしい』『とっつきにくい』『うさんくさい』といった感情を持って敬遠される方が多いのではないでしょうか。私もかつてはその一人でした。無宗教の者が信仰心を持つにはきっかけとなる大きな出来事が必要ですからね。

お釈迦様は仏教の開祖とされてますが、しかしそれは後の時代の人達がつくった定義であって、ご本人にはそのような認識はなかった。お釈迦様はただひたすら『人間はどう生きるべきか』を追究し、悟り、説かれた方です。2500年前の教えが今も全く色褪せる事無く輝くのは、時代は変わっても人間の本質は変わらない事を物語ってます。

人生に迷った時、自分に自信が持てなくなった時、人を信じる事ができなくなった時、本書を手にとってみて下さい。きっと道を拓くヒントが見つかると思います。

以上が20代から今に至るまでの約20年間に出会った中で選んだ5冊です。10年後、20年後に別の本が加わっているのか、(たぶんないと思いますが)全く顔ぶれが変わっているのか。

いやぁ、楽しみですなぁ。

第64回 『水無月雑感 2021年』

六月に入りましたね。2021年も折り返し。早いですね。コロナやらオリンピックやらで相変わらず世間はバタバタしてますが自分を見失わずにやっていきたいですね。

毎年この時期の恒例で愛犬マックスをサマーカットにしました。毎度毎度の感想ですが細いです(笑)。特に私は健康の為にエサを少なめに与えているのでなおさら細いです。細くなったマックスを見ると(いや、毛でわからんかっただけやんけ)、優しい気持ちになります。(何やそれ・・・。)

涼し気な表情で、呼吸もし易そうになったマックスを見てると、サマーカットが長命で元気な要因の一つかもしれない。ただ直射日光には弱くなるので要注意。

それと今月から一頭お預かりすることになりました。10年以上関わらせていただいている飼い主さんの犬で、色々理由があって夏が終わるまでウチで面倒を見ようと。手間も時間もかかるので何かと大変になると思いますが、その子との共同生活を通して新しい世界が見られると思う。それが楽しみです。

とにかくにも

2021年もあと半分。

頑張りましょ。

第63回 『エサのやり方』

私は犬の訓練やしつけの指導、問題行動改善の他にエサのやり方についてもアドバイスをする事があります。

エサをあげても犬が食べなければしばらく置いておく飼い主さんが実に多い。もしくは食べさせなくては大変だと言って缶詰を混ぜたり、ふりかけをかけたり、お肉をトッピングしたり・・・。絶対やめましょう。そのような行為は愚の骨頂。

ではどうするか。

すぐ下げればいいんです。

食べさせなくていい。

エサを上げて三分様子を見て食べるそぶりがなければ下げればいい。そしてその日は水だけ与える。犬の目やエネルギーに力がなければ慎重に観察しなくてはなりませんが、たいていは運動が足りていないか何らかのストレスを感じているサインです。なので真っ先に考える事は散歩が足りているかどうか。たいてい足りていないので回数か時間を増やす。次の日も同じ。その次の日も同じ。その次の日も・・・。内臓等に疾患がなければ一週間もすれば食べるようになります。

犬という動物は雑食性です。肉食寄りの雑食性です。肉食動物は目の前の食べ物をがっつくように食べます。草食動物のように四六時中草を食むという食べ方ではありません。

食欲がないという事は内臓や細胞が『食べるな』というサインを出しているんです。食べない事で自己を修復しようとしているんです。自己のバランスを整えようとしているんです。人間の浅はかな知恵や、愚かな感覚で無理やり食べさせてはいけません。調子が悪い時はしばらく断食。これが正しい対処法。天の知恵。

どの缶詰にしようとか、今日はどのふりかけにしようとか、前回は鶏肉だったから今回は牛肉にしようとか考えている時間は実に勿体ない。

とっとと散歩に行きましょう。

第62回 『書く功徳』

家の近くにとても可愛く、綺麗な声で鳴く鳥がいます。調べてみるとイソヒヨドリという名前らしいです。本当に綺麗な声で、その声を聞くととても癒されます。たまたまベランダに来て間近で聞けた時は幸せな気持ちでいっぱいになり、その日一日良い事が起こりそうな気にさせてくれます。

そのイソヒヨドリの声をBGMに私は毎朝写経をしております。その日のスケジュールの都合で5分で終わる時もあれば、40分程書いている時もあります。今年で3年目になりますが一日も欠かした事はありません。通常の写経は般若心経・写経用紙・筆ですが、私の場合はお地蔵さんのお経・大学ノート・鉛筆という超我流です。写経の目的は瞑想にあると思ってるのでそれでいいと勝手に納得してやってます。数年前から瞑想の大切さを感じるようになり、私の日課の一つになっておりますがその効果は素晴らしいと実感しております。

鳥の声、バイクの音、車の音、風の音、人の生活音・・・。それらの音に自分自身がどう反応しているかがよく分かるようになります。

自分自身の心の動きを客観視出来るようになり、いかに心が移ろい易く、もろいものであるかを痛感させられます。

また、犬がどの音に反応し、人間のささいな動きも見逃さない観察力を有しているかがよく分かるようになります。それはつまり、犬との距離が近くなるという事です。当然しつけや問題行動の改善にも役立ちます。

少し早起きして、静かな心で文字を書く。それだけで人生が少しだけ豊かなものになっていくと思います。

第61回 『狭間』

先日、約一年振りにある飼い主さんから連絡がありました。『あの人どうしてはるんやろぉ。あの犬元気にしてるかなぁ。』って思ってた方だったのでとても嬉しかったです。コロナの影響もあり、約一年の間にその方を取り巻く環境がだいぶ変わってしまい、再会した瞬間に『あぁ、苦労されてるなぁ。』という印象を受けました。吠え癖に悩まされてるという事でしたが犬には問題ないとすぐに感じました。主従関係をつける散歩の仕方と、犬が吠えるメカニズムを指導しますとだいぶ心が軽くなられたご様子。ただあくまでスタート地点に立っただけ。勝負はこれからです。

私は『こうすれば治る』という方程式を示す事は出来ます。後はそれを飼い主さんが実行するだけ。実行する力を身に付けるだけ。訓練士の仕事は問題行動を治す事ではなく、飼い主を治す事。

犬・飼い主・問題行動。

その狭間に

私はいつも悩まされます。

第60回 『士』

先日、しつけの指導で加古川市まで行ってまいりました。通常であればそんな遠方まで行く事はないのですが、いただいたメールの文面から熱意が伝わってきましたので足を運び、誠意を持って指導させていただきました。飼い主さんの耳に痛い言葉をいっぱい言って申し訳ない気持ちもありますが、問題行動改善の為には言うべき事は言わねばならないという思いがあります。なんとか突破口を開いて明るいドッグライフを送ってほしいと切に願っております。

私は飼い主さんに調子の良い事は言いません。むしろ飼い主さんがしんどくなるような事を言う方が多いと思います。それは問題行動の原因の多くは飼い主にあるからです。接し方、考え方、クセ。それらが積り積もって問題行動として表面化するのです。犬がどう変わるかではなく、人間がどう変わるかなんです。

しかし人間を指導する事はとてつもなく難しい。人に指導する器である為には己を律する生活をするしかありません。日常生活から己を律し、精神を鍛練するしかない。訓練士の『士』とは『人徳を有する者』という意味だと解釈しております。

かつてある人が私に言いました。「訓練士はビジネスや。」と。その言葉に納得は出来ませんでしたが20代の私には明確な信念も答えもなかったので悶々とした思いを持ちながら犬と向き合ってました。しかし今の私には揺るぎない信念があります。

『訓練士とは教育者である。』と。

美衣美食を求めて犬や飼い主と向き合う者は『犬屋』だと思う。

私は、

『訓練士』でありたい。

一生、

求道の人生を送りたい。

第59回 『意義を示してくれたのは』

ここ最近、保護犬のしつけの相談や問題行動改善の問い合わせが増えてます。

『良い傾向やなぁ。』って思う。

ペットショップやブリーダーから買う事に全面的に否定する気はありませんが、保健所で死を待つ命や施設で新しい飼い主を待つ命を家族として迎える方が尊い行為だと思う。

私は訓練士生活二年目(20才)の頃に大きな挫折を味わい自信を失っていた時に『動物たちへのレクイエム』という写真展が大阪で開催されているのを知り、休日を利用して足を運びました。『行かねばならない!』と感じたからです。そこに展示されている写真は涙なしには見れませんでした。怯えた表情。悲しい表情。その中でも真っすぐにこちらを見すえる日本犬の表情が私の心を揺さぶりました。首輪がついたままのその犬の目が人間の愚かさを物語っている気がしました。

『俺は何に悩んでるんや・・・。』

『何甘えてんねん・・・。』

かわいそうな命達が私に道を示してくれました。

愚かな人間の犠牲となった命達が私に目標を与えてくれました。

保健所に収容されている犬や施設にいる犬の多くはストレスを抱えており、精神状態が不安定で扱いが難しい犬が多いのは確かですが、ストレスを抜いてやり信頼関係と主従関係を作れば素晴らしい犬に変わります。

お金で命を買う前に、保護されている命や収容されている命にも目を向けてみる。そういう人間が一人でも増えればちょっとは明るい、温かい世界になるんじゃないかなぁ。私が愛犬のマックスを一才半の時に引き取ったのも、その思いが根底にあったからだと思います。

人を六人も嚙んだ嚙んだマックスが今では誰でも触れる犬になりました。

野良猫に襲い掛かってたマックスが今では猫と一緒に寝ています。

犬は、変われるんです。

人も、変われるんです。

第58回 『深める』

昨年11月から推定2才の保護犬のしつけをさせていただいておりますが、ここ最近の成長ぶりが素晴らしい。犬の成長はもちろんですがそれ以上に飼い主さんのレベルアップが脱帽モンです。社会化が全くされていない保護犬の為、多くの問題を抱えておりしつけが大変です。腕を嚙む、足を嚙む、飛びついて嚙む、引っ張る、すぐに興奮する・・・等々。初めの頃は毎回毎回アザだらけ生傷だらけの腕や足を飼い主さんから披露されてました。「また嚙まれました・・・。」「また飛びつかれて大変でした・・・。」「引っ張られてこけそうになりました・・・。」

その犬と飼い主さんの相性から『ハードルが高いな・・・。』という第一印象でしたが、問題行動のメカニズムと解決の方程式を説明し、目の前で実践すると飼い主さんのしつけに対するモチベーションに火がついたのかとても一生懸命に問題行動の改善に取り組まれるようになりました。私のアドバイスを一語一句をちゃんと聞いてくれて、少しずつ少しずつレベルアップしていくのが見て取れて感動的です。大寒波の時でもしつけに取り組まれる姿を見た時は胸が熱くなりました。

行く度に飼い主さんから感謝の言葉をいただきますが、いやいや私の方こそ感謝です。一風変わった、あまり一般的でない私のしつけ論をよく理解し、実践してくれて犬が良い方向に向かって行く。これこそ訓練士として最高の喜び。これに勝る喜びなんてないです。

問題行動の改善には、訓練士と飼い主さんとの間に不抜の信頼関係を作り、二人三脚で取り組むこと。

その犬と飼い主さんのおかげで私は自分の信念を深める事が出来ました。

この深めた信念を多くの犬と飼い主さんに還元していきたい。