第55回 『種を見つける』

近所にチワワを二匹飼ってる方がいます。毎朝その家を通る度に犬の吠える声と飼い主さんの金切り声が聞こえてきます。

『かわいそうやな。』って思う。

犬がね。

落ち着きのない、騒々しい人間に飼われる犬は不幸だ。

犬の行動は飼い主の行動のクセや考え方のクセを反映しているに過ぎない。だから犬の行動を変えたければ飼い主が行動を変えないといけない。

行動を変える第一歩は謙虚になる事。

その人間に足りないものは何かをわからせる為に神様仏様が遣わしてくれた動物、それが犬。

『精進せぇよ、精進せぇよぉ。』

神様の声が聞こえますか。

『悟れよぉ、悟れよぉ。』

仏様のエネルギーを感じますか。

せっかちな人は呼吸を整える努力。

イライラしがちな人は草花に美を見出す努力。

他人の短所ばかり目につく人は長所を見つける努力。

他人のせいばかりする人は己を省みる努力。

「時間がない。」が口癖の人は時間を作る努力。

努力の種なんていくらでもある。

私なんて、いくらでも種を持ってますよ。そりゃもう、イヤになるぐらい。

それだけ

多くの実がなる花が咲く。

自分の種を見きわめて

あせらず、慌てず、着実に

収穫の時期を待ちましょう。

第54回 『散歩ですっ!!』

散歩は犬にとって必須です。最重要事項です。一番のコミュニケーションになります。

先日も嚙む・吠える・部屋中に粗相する問題を抱えた9才の小型犬の飼い主さんに散歩の大切さを力説しているとポカンとしたご様子・・・。

「小型犬は散歩をしなくても大丈夫と聞きましたが・・・。」

「誰から聞いたんですか?」

「ペットショップの店員さんから・・・。」

はぁ・・・。ここにもペットショップ店員の間違ったアドバイスによる被害者が・・・。

散歩に体の大きさは関係ありません。体が散歩を求めているのではなく、犬としてのDNAが求めているんです。

先述のその飼い主さん、「掃除機をかけるとこの子は興奮して掃除機に噛みついてきて、掃除が終わる頃にはハアハアと肩で息をする程疲れるからそれで運動が足りてると思ってました。」と云う始末。

絶句・・・。

二の句が継げない・・・。

『そりゃ、この人が飼えば問題行動の総合商社のような犬が出来上がるわな・・・。』って思っちゃったし、言っちゃった。

散歩!! 散歩!! 散歩です!!

草木の匂いを嗅ぐ犬の姿に癒されましょう。

歩く姿、走っている時の表情に喜びを見出しましょう。

散歩を通して四季の移ろいを感じましょう。

問題行動の改善云々はそれからです!!

第53回 『愛犬近況』

九月に入り秋の空気になりましたね。朝晩は半袖だと少し寒いぐらいです。早朝の愛犬マックスとの散歩が楽しくなり自然と散歩の時間が長くなります。

そのマックスですが先月は大変でした。暑さと加齢の影響で三回も腸炎になってしまい、上からも下からも出るわ出るわで夜中に何度も起こされ寝不足の日が何日もありました。年に一、二回腸炎になる事はありますが同じ月に三回は初でした。

あまりに衰弱しきった状態になった時は死を覚悟しましたが、持ち前の生命力と数日の断食により無事復活し、今ではイキイキした表情で散歩が出来るまで回復しました。元気な姿のマックスを見てるととても幸せな気持ちになり、改めて犬の存在の大きさを感じます。飼い主さんの気持ちに寄り添う事が出来るのもマックスのおかげだと思います。

マックスは12月で14才。

あとどれぐらいの時間を一緒に過ごせるか。

一日一日大切に。

一回一回の散歩を大切に。

気持ち良さげに寝息を立てている愛犬の横でキーボードを叩いております。

第52回 『りっしんべんの方』

しつけが出来ない飼い主さんが実に多い。

『犬に我慢をさせるのがかわいそう。』

『ルールを作ると犬に嫌われるんじゃないか。』

『自由にさせてあげないとストレスがたまるんじゃないか。』

という考えに捉われているとしつけは成功しません。絶対に。

しつけを成功させるポイントはたのしむ事。しかし『楽しむ』ではなく『愉しむ』です。『enjoy』ではなく『pleasure』です。

友人と飲みに行く、恋人とドライブする、美味しい物を食べる、これらは『楽しむ』ですね。『enjoy』ですね。

困難な仕事をやり遂げる、わからなった数学の問題が勉強して理解出来るようになる、オリンピック選手が厳しい練習を己に課し自己ベストを更新する、これらは『愉しむ』ですね。『pleasure』ですね。しつけはこっちです。

家を出る時入る時は人間が先、リードを引っ張らさず人間に合わして歩く、食事の催促はさせない、等々といったルールを作り徹底して教え込む。その過程で起こる自身の心情の変化や犬の態度の変化を愉しめるようになればしめたもの。しつけは成功したも同然です。

『愉しむこと』

『pleasureを感じること』

これがしつけの要諦です。

第51回 『良書推薦』

連日、雨。

42年間生きてきて記憶にない程降り続いております。

小雨程度なら仕事をしますが基本的に雨天は休みです。気分が滅入っているかというとさにあらず、気持ちを切り替えて読書に時間を割いてます。晴耕雨読とは誠に宜しい言葉です。

犬関連で最近読んでいる(と言うか読み返している)本はフロイントの『オオカミと生きる』。初めて読んだのが20才頃ですのでずいぶん古い本ですが、良い本は何回読み返しても良いもんです。私のしつけ法や問題行動の改善法が広がったのもこの本のおかげです。

中途半端なしつけ本には書かれていない大切な事がたくさん書かれています。

しつけにおいては、自分の意志を通す力がいかに必要であるかという事と、実践する事が人の心を動かす力になるという事を再認識させられます。絶版本なので新品では買えませんが、この梅雨の時期(それとコロナ関連での自粛傾向の時期)を機に是非。

第50回 『手のかかる犬ほど・・・』

15年振りに一目惚れしました。

目はキリッとして鋭く、鼻は筋が通って高く、毛はオオカミのように美しく、耳は真っすぐ立ち、尾は巻尾で、年齢は2才・・・あ、はい犬です。

先月から関わらせていただいている犬で、初めて飼い主さん宅に到着した時に窓辺からジッと私を見据える姿にやられました。思わず「うわぁぁぁ」っと声がもれ、トキメキ100%になりました。(なんのこっちゃ)

私は動物らしい犬が大好きで、誰にでもすぐなつく愛玩犬よりも気難しく一筋縄ではいかない犬に魅力を感じてしまいます。

その犬の問題は極度の怖がりで、散歩に連れて行けない事。走っている車やバイクを見たり、遠くで鳴っているエンジン音を聞いただけでパニックを起こしてあばれます。飼い主さんはお手上げで、その犬は約2年間散歩に連れて行ってもらえず家と庭だけの引きこもり状態でした。原因は仔犬の頃からの経験不足と飼い主さんの間違った接し方。

パニックの度合いがかなりひどいので改善していくのはかなりエネルギーを要するとは思いましたが、鼻の使い方を見た時に『大丈夫、治る。』と何となく感じました。この『何となく』がバカに出来ないんですよ。

パニックを起こす度にマッサージをしたり、信頼関係を築く為にブラッシングに時間をかけたり、車がほとんど走らない時間を選んで朝3時半から散歩したりと、色々な努力を重ねた甲斐あって1クール終了しない内に喜んで散歩するようになりました。尻尾がピンと立ち喜々としたエネルギーで匂いを嗅ぎまわる姿を見ると幸せな気持ちでいっぱいになります。走っているトラックを見たり、交通量の多い道を歩いたり、杖をついて歩いている人を見るとまだパニックを起こしますが、まぁ仕方ない。2年も引きこもりだったんですから。毅然とした態度で待つのみ。

競技会で好成績を目指すのも良いですが、精神を病んだ、扱いが難しい犬を幸せにしていく努力は格別です。

そういう努力が私は楽しくて楽しくて仕方ないんです。

第49回 『曇りガラス』

先日、チュクチ族と犬との共存生活を紹介しているテレビ番組を拝見しました。私は原住民族の方達の動物の扱いにとても興味があります。我々文明生活者より動物の扱いがはるかに上手く、動物の事を理解されており、学ばなければならない要素がたくさんあるからです。しつけの本なんて足元にも及ばないぐらい優れた教材だと思います。

小学校に上がるか上がらないかぐらいの小さな男の子が大型犬同士のケンカを一瞬で止めさせるシーンに度肝を抜かれました。しつけの真髄がそのワンシーンに集約されていました。技術にこだわる人達からは「野蛮だ」とか「虐待だ」といった声が上がりそうですが、もう少し冷静になって、そして近視眼的な考え方を改めてほしいなと思いますね。

やり方だけを見て虐待と捉えるのは間違ってると思います。虐待かどうかはその後の犬の態度・表情・エネルギーから判断するべきです。これは現在の学校の教育や家庭のしつけにもあてはまることだと思います。

文明の利器や間違った食生活に囲まれ、真理から遠ざかり、本質的なものを見失っている我々文明生活者は原住民族の方達から学ばなければならない要素がたくさんあると思うんです。

我々は曇ったガラスを通して世界を見ている。

犬はその事に気付かせてくれる動物だと思います。

第48回 『八万四千の応用と一の基本』

ここんところワンポイントレッスン時において飼い主さんとの歯車がどうも合わない・・・。飼い主さんの希望に沿う指導が出来ていない・・・。溝が生じてしまう・・・。何故だろう・・・。何が足りないんだろう・・・。

って事がここ一、二か月私の頭を悩ましておりました。プチスランプに陥ってました。こういう時の私はひたすら読書です。読書は常にしておりますが、道を求める時は読書熱が5℃程上昇します。先哲の言葉に救いを求めます。

法華経に関する本を読んでいる時にハッと気付かされました。そこに答えがありました。

『対機説法が出来ていなかった・・・。』

お経の数は八万四千種あるらしいのですが、内容を突き詰めると全て同じ所に帰結します。『諸悪莫作。衆善奉行。』意味は『良い事をして、悪い事をしない。』ただこれだけの事なのに八万四千もあるのは、お釈迦様は教えを乞う人の度量に応じて説かれたからです。その人の理解力や置かれた境遇、性格等を考慮し、理解しやすいように説かれたからです。

ここ最近の自分は対機説法が全く出来ていなかった。自分のやり方や考え方を一方的に押し付けていた。

『何てこった・・・。』

『そりゃ、歯車合わんわ・・・。』

それが分かればすぐに自分の指導法を再チェックです。『あの飼い主さんへはこう言うべきだった・・・。』『あの飼い主さんへの指導はこうすべきだった・・・。』『あの飼い主さんには・・・。』『あの時は・・・。』

全てがクリアーになった時、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。犬に対して。飼い主さんに対して。

失敗は成功の母とは古来よりよく使われる言葉ではありますが、それにしても己の未熟さにはほとほと呆れます。基本を忘れると壁にぶつかる。土台が崩れると全てが崩れる。

その事を思い出させてくれた多くの飼い主さんと犬達に深く深く感謝です。そして懺悔です。

精進します・・・。

第47回 『言葉は剣より強い』

22才の女子プロレスレスラーの方が自ら命を絶った事が発端でSNS上での誹謗中傷について各方面で取り上げられてますね。私はテレビをほとんど見ない人間なので亡くなられた方の言動等細かな経緯はわかりませんが、言葉の暴力により相当悩み、苦しんでいたんだろうなというぐらいは察します。亡くなる前に飼っていた仔猫を人に託していたらしいのですが、そんな理性的な判断をしている人が自ら命を絶つ行動に出るのか、と驚きました。

私はとある飼い主さんとのやり取りで自分のいたらなさを痛感し、改めて言葉の重み、言葉の力というものを考えさせられ、それまでの自分の過去を省み、いかに今まで多くの方の心を傷つけ、迷惑をかけてきたかを深く深く反省させられた経験がございます。

過去を悔い、自己を向上させる為に必死に勉強している時に『雑宝蔵経』という仏典に出会いました。その中の『無財の七施』という教えが私の心にストンと落ち、以来今現在に至るまで自分なりに言葉を大切にすることに努めてまいりましたが、これからもずっと続く課題であると自覚しております。

人は人の言葉により傷つき、絶望もしますが、勇気をもらい、希望をもてる事も出来ます。何とも難しく、悲しくもなりますが、それが人なんですよね。

『無財の七施』の教えを大切に心掛け、人に勇気と希望を与えられる側の人間でありたい。少しでも優しく、明るい世界になってほしい。

日々反省。

日々努力。

第46回 『停滞からの気付き』

先月、腰を痛めてしまい丸三日間全てのスケジュールをキャンセルして静養に努めておりました。犬を抱きかかえた時にピキッと・・・。養生する為の三日間は精神的にこたえます。ただ静養とは言っても私の愛犬の世話はしないといけない(私の妻では不安なので)。いつもの半分の散歩コースで、いつもの歩く速度の八割減で散歩をしておりました。不便な生活。自分のエネルギーが弱くなっていることにイヤでも気付かされる。

ん?でも待てよ。エネルギーが弱っているという事は、言い換えれば多くの飼い主さんが犬と向き合う場合のエネルギーに近づけたという事にならないか?そしてそれは飼い主さんの気持ちに寄り添う事が出来るという事にならないか?という発想に至りました。この事は私にとって収穫でした。

私は自分で言うのもおこがましい限りですか、人よりエネルギーが高いと感じており、かつて師匠から「お前と同じペースで動くと周りが疲れるから、その辺は気をつけなさい。」と言われたり、『何でこんな事が出来ないのだろう。』と飼い主さんに対してもどかしくなる事もあります。

『もっと飼い主さんの立場に立って指導しなさい。』『もっと周りの人の気持ちになって行動しなさい。』腰痛という手段を通しての仏様からのメッセージだったのかもしれません。

『失敗は社会大学における必須科目である。』とは私淑している先生のお言葉ですが、金言だなと改めて痛感しました。

腰痛という停滞によって自分を少し見つめ直すことが出来た、私の新年度はそういう気持ちでスタート致しました。