第64回 『水無月雑感 2021年』

六月に入りましたね。2021年も折り返し。早いですね。コロナやらオリンピックやらで相変わらず世間はバタバタしてますが自分を見失わずにやっていきたいですね。

毎年この時期の恒例で愛犬マックスをサマーカットにしました。毎度毎度の感想ですが細いです(笑)。特に私は健康の為にエサを少なめに与えているのでなおさら細いです。細くなったマックスを見ると(いや、毛でわからんかっただけやんけ)、優しい気持ちになります。(何やそれ・・・。)

涼し気な表情で、呼吸もし易そうになったマックスを見てると、サマーカットが長命で元気な要因の一つかもしれない。ただ直射日光には弱くなるので要注意。

それと今月から一頭お預かりすることになりました。10年以上関わらせていただいている飼い主さんの犬で、色々理由があって夏が終わるまでウチで面倒を見ようと。手間も時間もかかるので何かと大変になると思いますが、その子との共同生活を通して新しい世界が見られると思う。それが楽しみです。

とにかくにも

2021年もあと半分。

頑張りましょ。

第63回 『エサのやり方』

私は犬の訓練やしつけの指導、問題行動改善の他にエサのやり方についてもアドバイスをする事があります。

エサをあげても犬が食べなければしばらく置いておく飼い主さんが実に多い。もしくは食べさせなくては大変だと言って缶詰を混ぜたり、ふりかけをかけたり、お肉をトッピングしたり・・・。絶対やめましょう。そのような行為は愚の骨頂。

ではどうするか。

すぐ下げればいいんです。

食べさせなくていい。

エサを上げて三分様子を見て食べるそぶりがなければ下げればいい。そしてその日は水だけ与える。犬の目やエネルギーに力がなければ慎重に観察しなくてはなりませんが、たいていは運動が足りていないか何らかのストレスを感じているサインです。なので真っ先に考える事は散歩が足りているかどうか。たいてい足りていないので回数か時間を増やす。次の日も同じ。その次の日も同じ。その次の日も・・・。内臓等に疾患がなければ一週間もすれば食べるようになります。

犬という動物は雑食性です。肉食寄りの雑食性です。肉食動物は目の前の食べ物をがっつくように食べます。草食動物のように四六時中草を食むという食べ方ではありません。

食欲がないという事は内臓や細胞が『食べるな』というサインを出しているんです。食べない事で自己を修復しようとしているんです。自己のバランスを整えようとしているんです。人間の浅はかな知恵や、愚かな感覚で無理やり食べさせてはいけません。調子が悪い時はしばらく断食。これが正しい対処法。天の知恵。

どの缶詰にしようとか、今日はどのふりかけにしようとか、前回は鶏肉だったから今回は牛肉にしようとか考えている時間は実に勿体ない。

とっとと散歩に行きましょう。

第62回 『書く功徳』

家の近くにとても可愛く、綺麗な声で鳴く鳥がいます。調べてみるとイソヒヨドリという名前らしいです。本当に綺麗な声で、その声を聞くととても癒されます。たまたまベランダに来て間近で聞けた時は幸せな気持ちでいっぱいになり、その日一日良い事が起こりそうな気にさせてくれます。

そのイソヒヨドリの声をBGMに私は毎朝写経をしております。その日のスケジュールの都合で5分で終わる時もあれば、40分程書いている時もあります。今年で3年目になりますが一日も欠かした事はありません。通常の写経は般若心経・写経用紙・筆ですが、私の場合はお地蔵さんのお経・大学ノート・鉛筆という超我流です。写経の目的は瞑想にあると思ってるのでそれでいいと勝手に納得してやってます。数年前から瞑想の大切さを感じるようになり、私の日課の一つになっておりますがその効果は素晴らしいと実感しております。

鳥の声、バイクの音、車の音、風の音、人の生活音・・・。それらの音に自分自身がどう反応しているかがよく分かるようになります。

自分自身の心の動きを客観視出来るようになり、いかに心が移ろい易く、もろいものであるかを痛感させられます。

また、犬がどの音に反応し、人間のささいな動きも見逃さない観察力を有しているかがよく分かるようになります。それはつまり、犬との距離が近くなるという事です。当然しつけや問題行動の改善にも役立ちます。

少し早起きして、静かな心で文字を書く。それだけで人生が少しだけ豊かなものになっていくと思います。

第61回 『狭間』

先日、約一年振りにある飼い主さんから連絡がありました。『あの人どうしてはるんやろぉ。あの犬元気にしてるかなぁ。』って思ってた方だったのでとても嬉しかったです。コロナの影響もあり、約一年の間にその方を取り巻く環境がだいぶ変わってしまい、再会した瞬間に『あぁ、苦労されてるなぁ。』という印象を受けました。吠え癖に悩まされてるという事でしたが犬には問題ないとすぐに感じました。主従関係をつける散歩の仕方と、犬が吠えるメカニズムを指導しますとだいぶ心が軽くなられたご様子。ただあくまでスタート地点に立っただけ。勝負はこれからです。

私は『こうすれば治る』という方程式を示す事は出来ます。後はそれを飼い主さんが実行するだけ。実行する力を身に付けるだけ。訓練士の仕事は問題行動を治す事ではなく、飼い主を治す事。

犬・飼い主・問題行動。

その狭間に

私はいつも悩まされます。

第60回 『士』

先日、しつけの指導で加古川市まで行ってまいりました。通常であればそんな遠方まで行く事はないのですが、いただいたメールの文面から熱意が伝わってきましたので足を運び、誠意を持って指導させていただきました。飼い主さんの耳に痛い言葉をいっぱい言って申し訳ない気持ちもありますが、問題行動改善の為には言うべき事は言わねばならないという思いがあります。なんとか突破口を開いて明るいドッグライフを送ってほしいと切に願っております。

私は飼い主さんに調子の良い事は言いません。むしろ飼い主さんがしんどくなるような事を言う方が多いと思います。それは問題行動の原因の多くは飼い主にあるからです。接し方、考え方、クセ。それらが積り積もって問題行動として表面化するのです。犬がどう変わるかではなく、人間がどう変わるかなんです。

しかし人間を指導する事はとてつもなく難しい。人に指導する器である為には己を律する生活をするしかありません。日常生活から己を律し、精神を鍛練するしかない。訓練士の『士』とは『人徳を有する者』という意味だと解釈しております。

かつてある人が私に言いました。「訓練士はビジネスや。」と。その言葉に納得は出来ませんでしたが20代の私には明確な信念も答えもなかったので悶々とした思いを持ちながら犬と向き合ってました。しかし今の私には揺るぎない信念があります。

『訓練士とは教育者である。』と。

美衣美食を求めて犬や飼い主と向き合う者は『犬屋』だと思う。

私は、

『訓練士』でありたい。

一生、

求道の人生を送りたい。

第59回 『意義を示してくれたのは』

ここ最近、保護犬のしつけの相談や問題行動改善の問い合わせが増えてます。

『良い傾向やなぁ。』って思う。

ペットショップやブリーダーから買う事に全面的に否定する気はありませんが、保健所で死を待つ命や施設で新しい飼い主を待つ命を家族として迎える方が尊い行為だと思う。

私は訓練士生活二年目(20才)の頃に大きな挫折を味わい自信を失っていた時に『動物たちへのレクイエム』という写真展が大阪で開催されているのを知り、休日を利用して足を運びました。『行かねばならない!』と感じたからです。そこに展示されている写真は涙なしには見れませんでした。怯えた表情。悲しい表情。その中でも真っすぐにこちらを見すえる日本犬の表情が私の心を揺さぶりました。首輪がついたままのその犬の目が人間の愚かさを物語っている気がしました。

『俺は何に悩んでるんや・・・。』

『何甘えてんねん・・・。』

かわいそうな命達が私に道を示してくれました。

愚かな人間の犠牲となった命達が私に目標を与えてくれました。

保健所に収容されている犬や施設にいる犬の多くはストレスを抱えており、精神状態が不安定で扱いが難しい犬が多いのは確かですが、ストレスを抜いてやり信頼関係と主従関係を作れば素晴らしい犬に変わります。

お金で命を買う前に、保護されている命や収容されている命にも目を向けてみる。そういう人間が一人でも増えればちょっとは明るい、温かい世界になるんじゃないかなぁ。私が愛犬のマックスを一才半の時に引き取ったのも、その思いが根底にあったからだと思います。

人を六人も嚙んだ嚙んだマックスが今では誰でも触れる犬になりました。

野良猫に襲い掛かってたマックスが今では猫と一緒に寝ています。

犬は、変われるんです。

人も、変われるんです。

第58回 『深める』

昨年11月から推定2才の保護犬のしつけをさせていただいておりますが、ここ最近の成長ぶりが素晴らしい。犬の成長はもちろんですがそれ以上に飼い主さんのレベルアップが脱帽モンです。社会化が全くされていない保護犬の為、多くの問題を抱えておりしつけが大変です。腕を嚙む、足を嚙む、飛びついて嚙む、引っ張る、すぐに興奮する・・・等々。初めの頃は毎回毎回アザだらけ生傷だらけの腕や足を飼い主さんから披露されてました。「また嚙まれました・・・。」「また飛びつかれて大変でした・・・。」「引っ張られてこけそうになりました・・・。」

その犬と飼い主さんの相性から『ハードルが高いな・・・。』という第一印象でしたが、問題行動のメカニズムと解決の方程式を説明し、目の前で実践すると飼い主さんのしつけに対するモチベーションに火がついたのかとても一生懸命に問題行動の改善に取り組まれるようになりました。私のアドバイスを一語一句をちゃんと聞いてくれて、少しずつ少しずつレベルアップしていくのが見て取れて感動的です。大寒波の時でもしつけに取り組まれる姿を見た時は胸が熱くなりました。

行く度に飼い主さんから感謝の言葉をいただきますが、いやいや私の方こそ感謝です。一風変わった、あまり一般的でない私のしつけ論をよく理解し、実践してくれて犬が良い方向に向かって行く。これこそ訓練士として最高の喜び。これに勝る喜びなんてないです。

問題行動の改善には、訓練士と飼い主さんとの間に不抜の信頼関係を作り、二人三脚で取り組むこと。

その犬と飼い主さんのおかげで私は自分の信念を深める事が出来ました。

この深めた信念を多くの犬と飼い主さんに還元していきたい。

第57回 『力量』

2021年がスタートして早や一か月が経とうとしています。連日ニュースの最初の話題はやはりコロナ・・・。コロナに感染して苦しんでいる人、失業した人、収入が激減した人等のニュースが日々流れ、いつになったら落ち着くのかと暗澹たる気持ちになります。そんな中、私はありがたい事に毎日忙しく働かせていただいております。『疲れたぁ、疲れたぁ』ではなく『有難い、有難い』を意識しながら動いてます。

先日、生後二か月の甲斐犬のワンポイントレッスンという、とても貴重な経験をさせていただきました。甲斐犬というだけでも珍しいのに仔犬に触れあえるなんて・・・。日本犬が大好きな私は前日からワクワクしておりました。見させていただいた仔は非常に憶病で、動物らしさを濃く残しているとても魅力的な仔犬でした。私を見ると怯えてテーブルの下に隠れてうなりながら吠える程繊細です。抱っこした瞬間にはパニックを起こしてギャーギャー鳴きわめきながら暴れ嚙んできましたが、五分程マッサージをすると少し落ち着いてくれました。わめく程怯えているのにオシッコをちびらなかったので支配的な犬になるだろうなと思いました。社会化を徹底しないと将来扱いにくい犬になりそうです。

動物らしさを濃く残している犬を飼うには人間の力量が試されます。それが私が日本犬に惹かれる所以です。この先色々大変な事がありそうですが、飼い主さんには是非頑張って力量を身に付けていただきたいなと切に願います。

とにもかくにも

2021年スタートです。

今年も頑張ってまいります。

第56回 『師走ですね』

今年も残すところわずかとなりました。早いですね。『密』が今年の漢字に選ばれたみたいですがやはりコロナ関連でしたね。コロナで始まりコロナで終わったような一年でしたからね。『鬼』や『滅』になるよりかはマシかな・・・。幸い私はコロナにかかることなく、体調を崩さずやってこれました。いやぁ、有難い有難い。

今年も色々な犬に出会えたなぁ。色々な飼い主さんとの出会いに恵まれたなぁ。相変わらず飼い主さんへの指導法には頭を悩まされますが、幅が広がったと実感出来る一年になりました。ホント、努力・研究に終わりはありませんわ。

来年も全集中、令和三年の呼吸、努力精進の型でやってまいります。

皆様、良いお年を。

第55回 『種を見つける』

近所にチワワを二匹飼ってる方がいます。毎朝その家を通る度に犬の吠える声と飼い主さんの金切り声が聞こえてきます。

『かわいそうやな。』って思う。

犬がね。

落ち着きのない、騒々しい人間に飼われる犬は不幸だ。

犬の行動は飼い主の行動のクセや考え方のクセを反映しているに過ぎない。だから犬の行動を変えたければ飼い主が行動を変えないといけない。

行動を変える第一歩は謙虚になる事。

その人間に足りないものは何かをわからせる為に神様仏様が遣わしてくれた動物、それが犬。

『精進せぇよ、精進せぇよぉ。』

神様の声が聞こえますか。

『悟れよぉ、悟れよぉ。』

仏様のエネルギーを感じますか。

せっかちな人は呼吸を整える努力。

イライラしがちな人は草花に美を見出す努力。

他人の短所ばかり目につく人は長所を見つける努力。

他人のせいばかりする人は己を省みる努力。

「時間がない。」が口癖の人は時間を作る努力。

努力の種なんていくらでもある。

私なんて、いくらでも種を持ってますよ。そりゃもう、イヤになるぐらい。

それだけ

多くの実がなる花が咲く。

自分の種を見きわめて

あせらず、慌てず、着実に

収穫の時期を待ちましょう。