第85回 『半分半分』

今月初めにジャパンケネルクラブ(以下、JKC)の義務研修会の為、松原市まで足を運んだ。3年振りの開催である。有名な訓練士を講師として招き、競技会の課目やドッグショー等のルールをダラダラと喋るのみ。1分が30分に感じる程くだらない、内容のうすい集まりである。行くだけ時間の無駄、お金の無駄なのでJKCの資格を返納しようかとも思うのだが、その度に師匠の顔が頭に浮かび踏みとどまる、という事を何十回と繰り返している。悲しませてはいけないなという思いにとらわれるのだ。

義理を重んじると窮屈であり、忠義の念が薄いと自己中心的になる。夏目漱石ではないがとかくに人の世は住みにくい。

世の中は無駄が多く、無駄な事で物事が進み、経済が回っている。自分もその車輪の一部だと達観するしかない。文明生活を享受するとはそういう事だと思う。

閑話休題、先日長い間音信不通だった飼い主さんから連絡があった。約1年半振り。『どうしてはるやろぉ。』としょっちゅう思っていたのでとても嬉しかった。今月下旬に行かせていただく約束を交わした。犬の状態を見たり、飼い主さんの近況を伺う事が今から楽しみである。

『世の中はいい事半分、いやな事半分』と尊敬する高僧の言葉を胸に残暑の日々を送っている。

第84回 『諫言で恩を返す』

今月初めから引っ張り癖の激しい柴犬のしつけをしている。警察犬訓練所に3か月預けていたが改善せず、担当の訓練士に唸ったり牙を見せるようになったので、飼い主さんは訓練所に対する不信感から犬を連れて帰ってきたのだが、相変わらず引っ張るし、神経質になって余計扱いにくい犬になってしまい途方に暮れていたところ、ある方の紹介を受けて私に連絡が入り関わらせていただく事になった。

初対面の時の飼い主さんの表情は今でも目に焼き付いている。不信感丸出し。そりゃ、そうなるわな・・・。犬は犬で、リードをつけようとすると唸る。そりゃ、そうなるわな・・・。

問題行動改善の為に訓練所に預けるのは間違いである。特に日本犬はやめたほうがいい。訓練所は基本訓練や高等訓練を教える施設であって、問題行動を改善する場ではない。いくら基本訓練をきっちり教えても引っ張り癖や噛み癖とは全く関係がない。事実私は日々色々な問題を抱えている犬と向き合っているがスワレやフセは全く教えていない。

する必要のない検査や手術をしたり、出す必要のない薬を処方したり、打つ必要のないワクチンを打って金をまきあげる現代医療とやってる事は同じじゃないか。全国至るところにある訓練所の方達はそこのところをもっと考慮し、研究するべきだと思う。満足してはいけないでしょ。一生勉強でしょ。訓練としつけは全く別物だ。

ちなみにその柴犬、今は落ち着いて歩くかわいい子になっている。って言うか私がリードを持った初日からちゃんと後ろをついて歩くようになっている。それを見た飼い主さんはとても驚いていたが問題行動とはそんなものだ。あとは飼い主が努力を続けるのみ。シンプルな作業を無意識に出来るようになるまで習慣化していくのみ。

第83回 『リフレッシュツルツルサマーカット 2022』

先月初めから今月中旬まで続いていた散歩代行をメインとしたスケジュールがようやく一段落ついてホッとしている。ものすごい勢いでリードを引っ張る柴犬がいたので、散歩代行という名目ではあるが勝手に引っ張り癖の矯正をしながら2週間毎日歩いていたらすっかり落ち着いた良い子になってしまい飼い主さんに大変喜ばれるという副産物もあった。散歩は散歩で楽しいが、やはり私は問題行動の改善が性分に合っている。犬の心理状態の動きを観察したり考察したりする事が大好きなのだ。

日に10頭近く散歩しながらもメインである出張訓練やワンポイントレッスンもこなし、動物取扱業関連の講習を受けたり、試験を受けたり、車の免許の更新をしたり、妻の買い物に付き合わされたりとかなりバタバタした日々を過ごしていた。気付けば「忙しい」「忙しい」を連呼していた。『心を亡くす』と書いて『忙しい』と読むが、心を亡くしている感覚はなかったので、『忙しいを口にする資格などない。』と自らを叱咤していた。『まだまだ青いなオレは・・・フフッ』などとゴルゴ13風な感傷に浸りながら(ゴルゴ13を読んだ事はないが)飲む夜明けのコーヒーは格別である。

もうすぐ本格的に暑い季節がやってくる。まだまだ時間との闘いは続く。景気付けに(?)愛犬のマックスをバリカンでつるっパゲにし、気持ちを日々整えながら、頂いた仕事に真摯に向き合っていく所存である。

第82回 『梅雨讃歌』

先月から散歩代行の依頼が激増している。新規の方、出張訓練やワンポイントレッスンで関わらせていただいた方、紹介を受けた方、等々様々だがとにかく増えている。いや、有難い事ではあるのだがメインである出張訓練の飼い主さん達にスケジュールの変更を余儀なくしてしまっているケースが増えている事が何とも申し訳ない。子供の頃見ていたテレビアニメ『パーマン』に出てくるコピーロボットがあれば・・・などと馬鹿げた事を結構マジメに考えていたりもしている。

人生の半分を犬と歩んできたが、文字通り犬と共に毎日歩いている。訓練所で修行してた頃も毎日忙しく動いてそれなりの充実感はあったが、今振り返るととても閉鎖的で視野の狭い世界であくせくしていたな、と思う。かと言って訓練所での時間を否定しているわけではない。狭い世界であくせくしている時間はモノクロに見えるかもしれないが、人生全般で見渡せばそのモノクロの時間も実はカラフルな時間だったという事に気付くからだ。40代の私にはまだまだモノクロの時間も到来する事もあるだろうが全体を見渡す目を持ち続けたいと思っている。

そしてその目を養うのに欠かせないのが読書である。私は良書に対するアンテナを張り巡らせているので常に数々の名著によって支えられている。雨の日が増えてくるこれからの季節は正に晴耕雨読と呼ぶにふさわしいではないか!!!

雨が降れば静かな心で知識を吸収し、雨が上がれば実践という肥料を与え、人の為になる知恵を収穫していく。

梅雨時も決して悪いもんじゃあない。

第81回 『新入生へ 新社会人へ 自分へ』

一年前にとある方に迷惑をかけてしまった。私の未熟さから招いた結果である。以来大いに反省し、勉強し、他の飼い主さん達に還元してきた。失敗を生かすことが出来たことに喜びを感じてはいたが、当の御本人に対しては不快な思いをさせてしまって以来お会いしていなかったので常に心の中に靄がかかっているような日々を過ごしていた。ところへ先日何とその御本人から連絡が入った。心臓が飛び上がるかと思う程驚き、そして嬉しかった。一年振りにその方にお会いした時は緊張していたが、御恩を真心込めてお返しする情熱に燃えていた。

きちっと仕事をこなし終えた時に、菓子折りと共に「ありがとう」の言葉を頂いた時は涙腺が崩壊しそうになった。ここ数年で一番嬉しかった出来事と言っても過言ではない。その方の度量の深さに私は救われた。

人は必ず失敗をする。必ず人に迷惑をかける。しかし失敗なくして成長はない。人に迷惑をかけて初めて己を振り返る。それが凡人の常の姿である。

人に迷惑をかけない方がいいのは勿論だが、失敗にビクビクしていては成長はありえないと思う。己を非として当たってくる言動に反発せず、謙虚に受け止め感謝し、明るい心で次に生かす逞しさを育んでいきたい。

人は生きているだけで迷惑をかけているんだから。

第80回 『惜別の色』

九年もの長きにわたり私に多くの知恵と知識と技術を授けてくれた犬が旅立った。亡くなる二週間前までいつも通り元気にボール遊びをしていただけに悲しみよりも驚きの方が大きい。急激に衰弱していく姿を見て病気の恐ろしさを思い、見抜けなかった不甲斐なさに唇を嚙んだ。

飼い主さんは20年も前にご主人を亡くされてから御一人で三人の息子さんを育て上げた気丈な方であるが「息子の前でもお医者さんの前でも涙を見せなかったが菊池さんを見ると抑える事が出来ません・・・。すいません・・・。」と大粒の涙を流された。その涙に値する人間かは私には分からないが、犬と真摯に向き合ってきたという自負はある。

別れは必ず来る。死は必ず訪れる。それを思う度にうかうかしていられないと背筋が伸びる。伸びた次の瞬間にはうかうかしている自分がいる。愚かさを自覚出来るだけまだマシか。うかうかの連続で人類の歴史は成り立っている。

34才の時に10年以上関わらせていただいた犬が旅立った日は目が眩む程のまぶしい青空だった。きれいな景色であってもその時の心理状態で見え方が違う事を知った。きれいであればある程悲しみは大きくなる事を悟った。

今年の桜は私にとって、悲しみの色になるだろう。

 

第79回 『縁を想う』

今月から13才の柴犬の散歩代行をしている。独立開業して2年目からの付き合いなのでかれこれ10年以上関わらせていただいてる事になる。出張訓練が終了しても散歩代行やしつけの相談等で関わらせていただける事に感謝感謝。犬は白内障、飼い主さんは緑内障に膝の不調。出会った当初は矍鑠とされていたご婦人であったが、明らかに老いの兆候が見られ、すっかり弱られてしまった。10年という時間は確実に人を変えてしまう。縁を想う。

偶然にも今月に入ってから、出張訓練を終了して数年経った方々から5件連絡があった。しつけの相談、散歩の依頼、近況報告等様々だが再び関わらせていただく事はありがたく、光栄に思う。訓練士と飼い主の理想の関係はこれに尽きると思う。人との縁を大切にする日々をこれからも重ねていきたい。

話は逸れるが今月に入ってから小説も読み始めている。普段小説は全く読まないが、年に一、二回発作的に小説が読みたくなる衝動に駆られる事がある。たいていは日にち薬で治まるが今回のはどうも治まらない。って言うか無理に抑える必要もなかろうという事で、前々から興味があった夏目漱石の『草枕』を発作薬に選んだ。『智に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。』というあまりにも有名過ぎる冒頭文から始まる日本文学史に残る名作。智に働き過ぎるきらいのある私はこの一文で完全に心を鷲掴みにされてしまった。角が立つ事を恐れる必要はないと思うが、立ち過ぎる人生もどうかと思う。智に働き過ぎる人、情に棹さし過ぎる人、意地を通し過ぎる人・・・。世の中には色んな人がいる。人は人に傷つけられ、悩まされる。しかし人を救うのもまた人。せっかく地球という同じ星に生まれ、生かされているんだから一人一人己の欠点を自覚し、謙虚な心で精進して、手を取り合って、譲り合って、穏忍自重しましょうよ。

第78回 『自灯明』

先日、本気噛みしてくる柴犬のしつけ指導の為奈良県まで行ってまいりました。遠方なので普通は行かないのですが内容が深刻なので行かせていただきました。奈良県は私が修行時代を過ごした地なのでなつかしい気持ちになりました。問題の犬は1才半。ちょうど問題行動がひどくなり始める時期ですね。嚙む主張が強く、ハウスさせる時が特にひどく、ハウスさせようとしただけで噛みついてきます。エサやおやつを使ってなだめすかして何とか入れる事に成功しても後が大変。吠えるわ扉を開けようとすると手に噛みつこうとするわで、最近は部屋の中でフリー状態。しまいには物に執着するわで飼い主さんも困り果てていました。

問題行動の発生メカニズムと治す為の方法を指導し、次に犬と向き合います。約30分程で自分からハウスするようにし、ハウスの中でも穏やかになるようにしました。飼い主さんは犬の変わりように目をパチクリされ喜ばれましたが、ここからが本当の勝負です。努力を怠るとすぐに崩れます。再発します。根が深く、奥が深い問題なので一筋縄ではいきません。

しつけとは何でしょうか。

即答出来る方は一体どれだけおられるでしょう。

しつけとは

辛抱する事を教える事。

忍耐をする大切さを教える事。

かわいい愛犬、我が子に辛抱・忍耐を教える為にはどうすればいいか。

自分が辛抱する生活を送ればいい。

自分が忍耐をする日常を過ごせばいい。

辛抱が辛抱でなくなり、忍耐が忍耐でなくなった時、自然としつけが出来るようになる。自然と問題行動が消えていくようになる。

しつけとは

『楽しむもの』ではなく『愉しむもの』。

何も努力しないで向こうからやってくる『楽しみ』ではなく、努力に努力を重ねて自ら食い込んで行く『愉しみ』。

愉しむことが出来るようになった人にしつけに悩む苦しみは消え去るでしょう。

ちなみに

奈良県の柿の葉寿司は格別です。立ち寄られた際は是非(笑)。

 

第77回 『抱負(のようなもの)』

2022年がスタートして早やひと月が経とうとしております。電光石火の如く毎日が過ぎております。『元日や後ろを見れば大晦日』と二宮尊徳先生が詠んでおられますが、常に肝に銘じておかなくてはならない教えだなと思います。

元日に私が一方的に私淑している塩沼亮潤先生の特集を組んだ番組が放映されておりました。何とも清々しい、気分の良いスタート。画面越しでも伝わる氏の魅力。『やはり本物は違うなぁ。』と元旦早々、感動と同時に身の引き締まる思いになりました。

2022年は、37才から続けている健康法に対するモチベーションをもっともっと上げていこうと思っております。年末年始にかけてちょっとした体調不良に陥りましたからね。健康に勝る宝はないな、と。しかしその副産物として、腸の不調と腰痛の関連性を体感出来た事はとても大きな財産になりました。この事が世間に広まったら整体師さんの収入は半減するのでは・・・。

とまぁ、そんな感じで(どんな感じや)

本年も自分を見失わずにぼちぼちやっていきます。

 

第76回 『大晦日』

先月末からコンラート・ローレンツ博士の『ソロモンの指環』を読み直している。

これで何回目やろぉ。20回ではきかん。

読む度に勉強になる。癒される。心が明るくなる。

本当に良い本だなぁと思う。

一番手垢で汚れていて、一番ブックカバーがボロボロになっていて、一番付箋だらけになっている本。

あれ?

この本が自分にとっての本当の座右の書なんじゃないの?

って事に気付く。

なんて事を考えている間にも2021年も終わろうとしております。

今年も色々ありました。多くの方に支えられました。感謝感謝です。

無事に15才を迎えた愛犬マックスと共に新年を過ごせる事に大きな喜びを感じます。

皆様、良いお年を。